コラム

ミニトマトの品種の選び方。消費者が好む味と育てやすい品種をご紹介

公開日:2024.08.23

ミニトマトの生産量は拡大し続けており、2020年の生産量は10年前の1.5倍、30年前の2.4倍に達しています。

この理由は、グラフに示したように単価がトマトより高く、比較的安定していることが大きいと考えられます。さらに言うと、ミニトマトは大玉トマトよりも簡単に、サラダをカラフルにする野菜として定着したためと考えられます。読者みなさま方の中にも、こうした情報に接して、栽培品目をミニトマトに変えることを検討されている方もいらっしゃると思います。しかし、ミニトマトで農業経営を安定させるためには、適切な品種選定が欠かせません。

そのポイントは、「販売先が何を求めるか」にあります。

具体的には、販売先がそこそこの食味しか求めていない場合は裂果が少ない品種を選び、高い食味を求めている場合には美味しいと評価されている品種を選ぶ必要があります。このことから、インターネット上には「美味しいミニトマト品種ランキング」なども見られます。しかし、こうした一覧だけに頼ると、裂果が多い品種をうっかり選んでしまい、栽培時に苦労することになりかねません。

そこで今回は、ミニトマトの美味しさが決まる要因と、“裂果が少ないおすすめ品種“ 及び “食感が優れて美味しい品種” をご紹介します。記事の最後には “裂果を少なくする対策” もご紹介しますのでぜひ最後までお付き合いください。

1.ミニトマトの美味しさが決まる要因とは?

まず、ミニトマトを含めたトマト類全般に言えることですが、糖度が高いほど甘い(≒美味しい)と感じる人が多くなります。しかし、糖度が同程度の場合は、外果皮が硬いほど、美味しいと評価する人が少なくなります。具体的には、小笠原での試験例として「甘っこ」と「キャロルスター」は糖度が同程度で推移しましたが、食味評価は「甘っこ」が「キャロルスター」より高いと結論付けられています。そして、データをよく見ると、「甘っこ」は「キャロルスター」より裂果が多いため上物果率が低いことが分かります。 このことから、同じくらいの糖度の場合、外果皮が柔らかい品種の方が美味しいと感じやすくなると考えられます。

2.栽培におすすめ!ミニトマト品種4選

裂果が最も多い作型である9~11月の収穫を目的に栃木県で試験した結果、糖度が高く裂果が少ないとされた品種は、「TY千果」、「AS-356(現在はリトルジェムプレミアムと命名)」、「サンチェリーピュアプラス」でした。

糖度が高く裂果が少ないミニトマト品種 TY千果

黄化葉巻病ウィルス(Ty-3a型)に耐病性を示すことから、兵庫県、鹿児島県など各産地で使用されており、産地での標準的な品種になっています。また、兄弟品種である「サマー千果」は、同じ段数であれば比較的背が低いので、支柱を長くする必要がありません。



リトルジェムプレミアム

黄化葉巻病ウィルス(イスラエル系統、イスラエルマイルド系統)に耐病性を示す品種です。草勢のコントロールが容易で育てやすいとされています。



サンチェリーピュアプラス

青森県の夏秋作型でも裂果が非常に少ないと評価されています。





食感に特徴があるミニトマト品種 CFプチぷよ

「TY千果」など異なり、外果皮が薄くて弾力性があるのが特徴です。サクランボのような独特の食感があることから、栽培に挑戦する人が急増している人気品種です。なお、4~12月の収穫を目的に東京都内で試験した結果では、収量は「甘っこ」などと同等で、糖度も高いとされています。ただし、東京都内の試験では、「東京エコポニック」というヤシ殻を培地とした養液栽培での結果であり、土耕栽培など他の栽培方式での裂果発生率は不明であるため、注意が必要です。

3.ミニトマトが裂果する原因とその対策

これまで見てきたように、ミニトマトの裂果は、品種によって大きな差があるので、品種を変えることで防ぐのがもっとも簡単です。しかし、販売先の意向で裂果しやすい品種を栽培しなければならない方も多いのではないでしょうか?そんな方のために、裂果の原因と対策を簡単に説明します。

裂果の原因

ミニトマトの裂果は、葉からの蒸散がほとんど行われない早朝が大部分を占めており、かん水により茎経由で水分が流入することに加え、果実表面が結露した場合も果皮が水分を直接取り込み内果皮が急激に肥大することで、外果皮が耐えられなくなることで裂果するので、皮が薄い品種で多発します。

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裂果を減らす対策

収穫時の着色歩合を下げる
鹿児島県の試験結果では、収穫基準を9分着色→7分着色に下げることで裂果か数を半分以下に下げつつも糖度・糖酸比等の品質は同等に維持できることが明らかになりました。このことから、糖度などの食味が落ちない範囲で早めに収穫する方法も非常に有効です。

開花からの日数がなるべく短くなるように栽培する
和歌山県で「キャロル7」栽培ハウスを調査した結果、果皮硬度は開花50日後から急激に下がりはじめ、65日頃に下がりきることが明らかになりました。このことから、特に冬季は、ハウス内の温度や炭酸ガス濃度を最適に制御することにより、少しでも開花~収穫日数を短くすることも有効です。




以上、ミニトマトにおいて裂果が少なく栽培しやすい品種や、消費者が好む食感を持つ品種を紹介しました。 サラダを簡単に食べたいという消費者の動向は今後も続くと思われるので、ミニトマトは施設栽培で安定した収益を上げるのに適した品目であり続けるでしょう。また、様々な特性を持った品種が毎年開発されていますので、今後もご紹介していきたいと思います。




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▼参考サイト
〇東京新聞,2022年10月15日,ミニトマト農家は元SE…畑違いの転職者が100%定着する秘訣は? 経験者が就農支援する「親方制度」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/208208
〇e-Stat,政府統計の総合窓口,ミニトマトとトマトの単価推移グラフ
https://www.e-stat.go.jp/
〇和歌山県,高糖度ミニトマトの有望品種について~高糖度完熟出荷に適した葉かび病耐病性品種の選定~
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070100/070109/gaiyou/003/danchiengeicenter/danchiengeicenternews/news41_60_d/fil/47_10p11p.pdf
〇北海道立消費生活センター,高数値でも甘味はまちまち ~トマトの糖含有率と酸度テスト~
https://www.do-syouhi-c.jp/test/2012kirameku75.pdf
〇東京都総務局,〔亜熱帯における農業技術の普及及び経営指導〕野菜・果樹・花き・切葉類の生産性向上~ミニトマトの有望品種の特性把握~,五十嵐清晃・近藤 健(営農研修所)
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/07ogasawara/farm/pdf/osarch31-11.pdf
〇とちぎファーマーズチャレンジネット,栃木県農業試験場 研究成果集第 39 号,ミニトマト夏秋栽培における高品質安定生産技術の確立
https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/seikasyu/seika39/seika_hu5minitomato.pdf
〇静岡製機,量的管理法に基づいた炭酸ガス施用によるミニトマトの増収技術実証,兵庫県立農林水産技術総合センター農業技術センター農産園芸部
https://www.shizuoka-seiki.co.jp/products/agriculture/greenhouse/horticulture/cg-1000/file/3892/verificationtest_r4_2.pdf
〇鹿児島県,品質を維持し裂果を抑制するミニトマトの収穫適期は7分着色
https://www.pref.kagoshima.jp/ag11/pop-tech/nenndo/documents/documents/104090_20230209133036-1.pdf
〇東京都農林水産振興財団ホームページ,〔東京型スマート農業プロジェクト(受託研究)〕東京フューチャーアグリシステム®のトマト実証栽培(2019 年)~ミニ系品種の半促成長期どり栽培での収量性~
https://www.tokyo-aff.or.jp/uploaded/attachment/9091.pdf
〇東京都農林水産振興財団ホームページ,東京式養液栽培システムの概要トマトの栽培管理とシステムの設置
https://www.tokyo-aff.or.jp/uploaded/attachment/4313.pdf
〇京都大学学術情報リポジトリ,ミニトマトにおける裂果発生の機構解明とその制御に関する研究
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/78076/1/D_Ohta_Katsumi.pdf
〇A database,結露センサー付き複合環境制御装置を用いた湿度管理による促成ミニトマトの裂果抑制
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030922513.pdf
〇和歌山県,ミニトマトの裂果発生要因について
https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070100/070109/gaiyou/003/danchiengeicenter/danchiengeicenternews/news41_60_d/fil/46_4p.pdf

ライタープロフィール

【石坂晃】
1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。










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