コラム
公開日:2020.08.31
ハダニはトマトやミニトマト、キュウリ、ぶどうなど多くの植物で問題になる害虫です。ハダニに吸汁された植物は生育が悪くなり枯死することもあります。葉は白くかすれた様になるため、大葉のように葉を出荷する野菜では徹底した防除が必要です。
対策には殺ダニ剤の使用が一般的で、防除の中心を担っています。しかし、ハダニは薬剤抵抗性が発達しやすいため農薬だけに頼った対策は難しくなってきています。最近では、天敵など化学農薬以外の防除方法との併用が注目を集めています。
そこで今回は、ハダニ対策におすすめの農薬や天敵を利用した駆除方法について紹介していきたいと思います。
ハダニは薬剤抵抗性が発達しやすいため、同じ系統の農薬を連続で使用しないことが重要です。 ハダニ密度が低い時には、殺卵性が高く残効性の長い薬剤(コロマイト®乳剤、カネマイト®フロアブルなど)を、大量発生時には成虫に効果の高い即効性の期待できる薬剤(アグリメック®フロアブル、ダブルフェース®フロアブルなど)を使用します。
※中途半端な防除による抵抗性発達のリスクを減らすため、農薬の説明書を良く読んでその内容に従いましょう。
また、農薬はハダニが発生しやすい葉裏までしっかりと丁寧に散布するようにしましょう。抵抗性発達の程度は地域だけでなく圃場ごとに異なり、ほとんどの殺ダニ剤が効かないこともあります。自分の圃場をハダニから守るためにも、農薬の使用には細心の注意を払いましょう。
抵抗性の発達したハダニにも有効な対策として注目されているのが天敵(カブリダニ類)です。土着天敵を活かすことはもちろん、酢や重曹などと同様に有機農業でも使える天敵製剤が市販されています。
おすすめは、従来の天敵製剤と天敵を保護する資材であるバンカーシートが一緒になった、ミヤコカブリダニ製剤(ミヤコバンカー®)やスワルスキーカブリダニ製剤(スワルバンカー®)です。
従来の製品に比べるとシビアにタイミングを計ることなくハダニの発生前から計画的に使用でき、気温や湿度などの環境変化や薬剤の影響を緩和できるなど、簡単に使えるように改良されています。
天敵ダニがハダニを餌に増えて効果を発揮するまでには少々時間を要するため、ハダニの発生直前から発生初期に使うと効果的です。大量発生してから使っても捕食が追い付かず十分な効果が得られないため、気を付けましょう。
▲天敵(カブリダニ類)の捕食イメージ
農薬と天敵を併用することでより効果的に抵抗性の発達したハダニを抑え込むことが可能です。キュウリやナス、イチゴ、ぶどう、ミカンなどでは防除モデルも作られています。
農薬を併用する場合には天敵資材への影響を考慮することが大切です。天敵を使用する1ヵ月前からは天敵への影響の小さい農薬を使うようにします。(アセキノシル水和剤、気門封鎖剤など。※合成ピレスロイド剤や有機リン剤、カーバメート系剤は避ける)アザミウマなどハダニ以外の害虫の防除に使う農薬にも注意が必要です。
また、天敵が効果を発揮するまでの間にハダニが増えてしまう場合も“天敵にやさしい農薬”を使用しましょう。(気門封鎖剤、BPPS水和剤、アセキノシル水和剤、ピフルブミド水和剤など)
天敵が増えない場合やハダニの増殖の方が早いような場合には、殺ダニ効果の高い即効性の農薬を使ってハダニが施設中に蔓延することを防ぎます。(ミルべクチン乳剤、クロルフェナピル水和剤、スピロメシフェン水和剤、ビフェナゼート水和剤など)
ハダニ対策は、圃場の薬剤抵抗性の発達の状況に応じた防除方法を選択することが重要です。減農薬で栽培したい場合や農薬が効きにくい抵抗性の発達したハダニには天敵製剤が力を発揮しますよ。
▼参考文献
〇新・果樹のハダニ防除マニュアル ー
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/2020330nifts_hadani_tec_manual.pdf
〇バンカーシート(R)利用マニュアル2018年版(全体版) ,技術紹介パンフレット,パンフレット,刊行物,プレスリリース・広報,農研機構
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/00_bankerseat_manual_2ed_all_1.pdf
〇10.主な殺ダニ剤とその特性ー覧,農薬関係,営農基本情報,JA全農ちば営農支援部
http://www.ja-cb-mottoanshin.com/einou/bapdf/22-2010.pdf
〇7. 難防除病害虫対策 7-1. ハダニ類, 農作物病害虫防除参考資料,農業水産振興課,食と農の振興部,県の組織,県民情報,奈良県
http://www.pref.nara.jp/secure/42654/7-1_spider_mites.pdf
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。