コラム
公開日:2021.10.05
アザミウマは、作物の葉や花、果実などに寄生し、収量や品質を大きく低下させる厄介な害虫です。英語名の”Thrips”から、「スリップス」とも呼ばれています。幼虫・成虫ともに被害を及ぼす作物の種類が幅広く、ときにはウイルス病を媒介することもあるので、適切な対策が必要です。
アザミウマの防除は農薬散布による方法が一般的で、殺虫剤に少量の砂糖や木酢液を混和する手法も知られています。ところが、同じタイプの殺虫剤が繰り返し使用された結果、最近では殺虫剤が効かない「薬剤抵抗性」を持つアザミウマも続々と出現。農薬だけでは防除が難しく、環境配慮の観点からも減農薬につながる新しい対策が求められています。そこで今回は、農薬を使わないアザミウマ対策として、赤色LEDを活用した注目の技術をご紹介します。
赤色LEDを使ったアザミウマ防除の方法は、ハウスの地上高1.8~2.0mほどの位置にLEDランプを設置し、赤色の光を作物に照射するだけ。アザミウマが認識できる色や光の波長の関係で、赤色の光が当たっている作物にはアザミウマが近づきにくくなることが明らかになっています。作物に近づかせないことで食害を防ぐのはもちろん、通常、作物の葉や花などで行われる産卵のチャンスを減らし、アザミウマの繁殖も防ぐ仕組みです。
赤色LEDによる防除は、きゅうり・ナス・ピーマンなどに被害を及ぼすミナミキイロアザミウマに高い効果を示します。一方、きゅうりなどのほかイチゴやトマトにも被害のあるミカンキイロアザミウマや、ネギやタマネギへの寄生で知られるネギアザミウマへの効果は限定的です。導入の際は、防除したいアザミウマの種類をきちんと確かめておく必要があります。
赤色LEDには、作物に近づこうとするアザミウマを寄せ付けない効果はありますが、もともと作物についていたアザミウマを引き離す効果はありません。照射前からアザミウマが発生している圃場では十分な効果が得られませんので、事前の駆除が必要になります。
赤色LEDの照射時間は、日の出から日の入りの間の日中12~14時間ほどが目安です。夜間に照射するとアザミウマをおびき寄せることになり、逆効果となってしまうので注意しましょう。
アザミウマの被害を最小限に抑えるためには、赤色LEDの照射だけではなく、次のような方法と組み合わせた対策をとることが重要です。
以上、赤色LEDを使ったアザミウマ対策についてご紹介しました。LEDの設置さえ済ませてしまえば、光を照射するだけの簡単な方法で高い防除効果を得ることができます。専用のLED装置も販売されていますので、ぜひチェックしてみてください。
▼参考文献
○赤色LEDによるアザミウマ類防除マニュアル(⼤阪府⽴環境農林⽔産総合研究所など)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/redled_azamiumabojyo_manual.pdf
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!