コラム

外来害虫「トマトキバガ」とは?早期発見と防除のコツ

公開日:2023.06.01

△トマトキバガ幼虫と被害果

夏の代表野菜、トマトは料理の万能選手。生食用から加熱用まで種類も豊富で、季節を問わず活用されています。令和3年のトマト出荷量は累年で659,900トンと、同じ夏野菜のきゅうりやなすを大きく上回り、年間を通して栽培される人気の野菜です。そんな身近なトマト栽培に影響を及ぼす外来害虫、トマトキバガの発生が国内でも確認されています。

1.ナス科植物の外来害虫トマトキバガ

△提供:熊本県病害虫防除所(トマトの被害葉)



トマトキバガは、チョウ目キバガ科に属する南米原産の小型のガです。2006年にスペインへの侵入が確認された後、ヨーロッパやアフリカ、中央アメリカ、アジア各地に分布を拡大させ、2021年5月には台湾、中国など近隣諸国でも発生が確認されました。トマト、ナス、バレイショなどのナス科や、インゲンマメなどの農業被害が報告されています。



△提供:熊本県病害虫防除所(トマトの被害果)



日本では、2021年10月に熊本県、11月に宮崎県のトマトほ場で初めて発生が確認されました。2022年に入り、鹿児島県、大分県、福岡県、長崎県など九州地域から、愛媛県、和歌山県と発見が続いています。現在は農作物への被害は確認されていませんが、被害への早急な対策が必要です。

2.トマトキバガの特徴とは?

△提供:熊本県病害虫防除所(果実内部に寄生したトマトキバガ幼虫)



作物への被害を防ぐために、まずはトマトキバガの見分け方を確認しておきましょう。 トマトキバガの終齢幼虫の体長は約8mm、体の色は淡緑色から淡赤色です。頭部の後ろ、前胸の背面には黒色の細い横帯が入っています。



△提供:熊本県病害虫防除所(トマトキバガ幼虫(左)、蛹(右))



成虫は、頭部に牙のような下唇髭を持っており、羽を広げた時の大きさは約10mm。灰褐色の地色に黒い点が入っているのが特徴です。ナス科作物の害虫であるジャガイモガと似ていますが、終齢幼虫は体長約10mmと大きく、前胸背面の黒色横帯が太いこと、成虫は雄雌ともに交尾器の差があることの2点から、違いを確認できます。



△提供:熊本県病害虫防除所(トマトキバガ成虫)



生態は繁殖力が旺盛で、卵から成虫になるまでの期間は24日から38日程度と短いことも見逃せません。夜行性の成虫は寄主植物の葉の裏面に卵を産み付けた後、幼虫が茎葉の内部やがく片、未成熟果にもぐりこんで食害を繰り返します。果実の食害は、表面に生じる数mm程度のせん孔痕が目印です。内部の食害部分が黒く変色し、腐敗が始まります。

3.どんな農薬が効く?トマトキバガ防除のコツ

茎葉や未成熟果にもぐりこむ性質を持つ害虫には、農薬散布による駆除が難しいのが実情です。実際に農業被害が報告されている海外地域では、農薬散布による防除のほか、天敵であるタバコカスミカメ類を用いた防除方法も利用されています。 国内では2022年5月現在、トマトキバガ駆除を目的とした登録農薬はなく、対策としてはフェロモントラップによる誘殺が一般的です。しかし、被害を防ぐために、農林水産省では植物防疫法第29条第1項に基づき、チョウ目害虫に効果のある農薬を使った防除を指導しています。


ハウス栽培の技術も向上し、トマトの通年栽培も実現しています。トマトの発育に適したほ場は、トマトキバガにとっても生育しやすい環境と考えて、トマトキバガの最新情報を入手し、農業被害に備えましょう。



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▼参考文献
○農林水産統計「令和3年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、 収穫量及び出荷量」
○植物防疫所 病害虫情報,トマトキバガについて
https://www.maff.go.jp/pps/j/guidance/pestinfo/attach/pdf/pestinfo_127_1-3.pdf

ライタープロフィール

高橋みさと
自然に近い場所を求めて2021年に都内から郊外へ移住。 ライター業をしながら米や野菜づくりを実践しています。
趣味は登山と外遊び。 発酵に興味があり、コンポストを利用して生ごみを捨てない生活にはまっています!









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