コラム
公開日:2021.08.26
群馬県藤岡市でトマトを栽培している『とまとや』の松本さんは、会社勤めをしているときに出会ったご主人と結婚し、農家の嫁になった。横のつながりを広げ、新しい情報を得ようと積極的に県の養成塾や、農林水産省が企画した『農業女子プロジェクト』に参加。そうした経験や知識を活かし、少量ずつ売れる加工品や、独自の販売方法『夜市』を生み出しファンを魅了している。
今回は、トマト農家になった松本さんの農業女子としての活動、人とのつながりを大切にすることで成功した地域密着型の6次産業化の取組みについて取材しました。
私は埼玉県の出身で、地元企業で働いていました。そこで主人と出会い、2人の子供にも恵まれ、農業とは無縁の生活を送っていたのですが、2人目の産休中に主人から「実家のトマト農家を継ぎたい」と相談されました。実家が兼業農家だったこともあり農業は好きだったため「いいんじゃない」と即答しました。その後、群馬県に移り住み主人はすぐに就農し、私はしばらく会社務めを続け、平日は仕事、土日は農作業を手伝うといった兼業の日々が続きました。
本格的に就農したのは11年ほど前。最初の1年は毎日ハウスに行って、“無言で農作業をして帰ってくるだけの日々”に悶々としていました。
そのような時、県庁の農政課が主催した『農業フロントランナー養成塾』の存在を知り、「横のつながりがほしい、情報がほしい」思いで参加しました。参加者はやる気に溢れた方ばかりで、すぐに意気投合し仲間ができました。
また、ここで6次産業について色々学びました。組合出荷なのですが、加工品の販売は認められているため、積極的にマルシェに行っては新しいつながりを作り、お菓子屋さんやパン屋さんとも出会いました。そうした活動の中で、トマトジュースやジャム、ドライトマトといった加工品を作り、小量ずつでも上手く販売できる販路を確立することができました。その一つが『夜市』です。
ハウス近くの作業場で夜の1~2時間だけ加工品を販売してみようと考えました。それが『夜市』です。
昼間は農作業があるため、空いている時間は夜しかなく、苦肉の策でした。しかし、周りからは「いい企画だね!」と好評で、疲れていても来てくれる人たちとの交流が楽しくて、気づけばたくさんの元気をもらっていました。今では私にとって大切な時間です。
疲れて袋詰めができない日もあるため、開催日は不定期で無理なく自分のペースでやっています。前日の夜に「明日やります!」とSNSで告知するのですが、うちのトマトを買うためにわざわざ来てくれるファンの方々は本当に有難いです。小規模でやっているからこそ一人一人の顔を見て手売りすることができるため、今がちょうど良い規模だと思っています。
まだ農業女子プロジェクトが立ち上がったばかりの頃、フロントランナー養成塾で知り合った友人が参加したことでその存在を知りました。最初はあまり興味がなかったのですが、「国費を使ってないから動きやすい」ということを知り、プロジェクトが立ち上がった早い時期に加入しました。そのときはまだ全国で150~200名ほどの規模でした。
加入したての頃、総理官邸で開かれた農業女子会に参加したことがありました。総理官邸に入れるなんて、本当に貴重な体験をしたと思います。
ここ1年は新型コロナウイルスの影響でイベントがありませんが、以前は東京の丸の内で開かれる農水省主催のマルシェに参加していました。農業大学やメーカーなど出展数が多いので、売れるかというとなかなか厳しいのですが、私は売上よりも、東京に行ったときにしか会えないお友達に会えることを楽しみにしていました。九州から来る方もいたし、Facebookでつながりのあった農業女子と初めて会って話をしたり、自分たちの商品を交換することもありました。そこで新しい農業女子と友達になったり、多くの方とつながりが出来ました。
法人化をして大規模経営をしている方は知名度アップのために参加していたし、これは参加する人それぞれの考え方です。農業女子の良いところは、自分に合った自由な活動ができることだと思います。
農業女子には、参画している企業の商品モニターに参加できることがあります(農作業着など)。今私がやっているのはモンベルのウェアのモニターです。UV加工がされている素材で、首や手の甲の日焼け対策もできるし、ポケットもたくさんあるし、とても使いやすいです。今回はこのウェアを着用した作業風景の写真を送ったり、着心地などをレビューします。モニター後にウェアを頂けるのもうれしいです。
以前、タニタ×コーセーのプロジェクトがあり、お友達たちと4人で参加したことがあります。農業女子が一日どれくらい動いているか調べるために万歩計を持ち歩いたり、体重や体脂肪、筋肉量などを測定したデータを記録したり、3ヶ月間モニターしました。コーセーさんには髪質の変化などを見てもらいました。3ヶ月やっていると、健康への意識が変わります。痩せてキレイになった子もいました。
このモニター企画には最後にアワードがあり、私はヘルスの部門で入賞しました。表彰式ではモンベルの素敵な衣装を着て、コーセーのプロのメイクさんにメイクをしてもらい、多くの報道陣に写真を撮られ、まるで女優の記者会見のような体験をしました。緊張して顔が引きつったのを覚えています。農業新聞にも掲載されたため、何も知らなかった友人たちが驚いて連絡をくれました。何から何まで初めての体験で、とても楽しかったです。農業女子に加入していなかったら体験できないことでした。
同じ分野でがんばっている人を見ると刺激になります。旦那さんは会社員で自分だけ農業やっているとか、自分と両親だけ農家とか、大規模な法人経営をやっているとか、農家にも様々なスタイルがあり、それぞれ目標やゴールがあることを知り、視野が広がりました。
去年、農水省が企画した『女性コミュニティリーダー塾』に参加し、自分自身を分析したり、1人1プランを考えて実行する課題が与えられました。「私は何がやりたいのだろう?」と考えたときに、地域の緑が減ってきたことが寂しいな、これは農家がどうにかしたほうがいいのではないか?と思い、近所の遊休農地にひまわり畑を作るプランを立てました。しかし、話を進めていくうちに、ひまわりにつく虫が近隣のトマト農家に影響する可能性があるということが分かり、ひまわり畑は断念しました。その代わり、土地を選ばないサツマイモ畑を作ることにして、昨年400本のサツマイモを植えました。協力してくれた行政の方がサツマイモの苗を準備してくれたり、予算の手続きをしてくれて、苗代とマルチ代と周りに植える花の資金の調達もできました。また、有志で集まってくれたママ友たちと順番に水やりをしたり、『イモパト』と名付けたサツマイモ畑のパトロールを行うなど、みんなが喜んで参加してくれて、私も企画してよかったと思っています。これにより地域の新しいコミュニティができました。続けることが大事なので、5年を目標にやってみようと思っています。
体はきついし休みもないけれど、会社に勤めていたときより今の農家人生のほうが楽しいです。自分だけオシャレをして遊びに行くことはないけれど、それはダメなことではないし、自分でメリハリをつけて楽しめば良いと思います。ある農業女子の方に「松本さん、時間は作らなきゃだめよ」って言われたことがありました。その方は法人を立ち上げ、大規模な事業を展開している方なのですが家族には「ご飯作らない宣言」をして、食事はお弁当にしているそうです。
ただ、時間をつくるためには家族の理解が必要です。うちでは主人が美味しい夜ごはんを作ってくれるし、義父も義母も協力的なので、私はこうしてマルシェに行ったり夜市を開いたり好きなことも出来ています。娘たちもマルシェの看板を作ってくれたり、夜市のレジを手伝ってくれており、家族の協力に感謝しています。
最初はモヤモヤしていた“無言の農作業”も、今では一人で色々なことを考える時間に変わりました。考え方ひとつで世界は大きく変わります。
これまで多くの雑誌や新聞、テレビ番組に出演させてもらいましたが、これもトマト農家になったからこそ経験できたことです。『ひまわりプロジェクト』も農家だからこそ企画するチャンスがありました。 私はトマト農家を通じて色々な出会いや経験をすることができたため、農業は“無限の可能性がある職業”だと実感しています。これからも家族で楽しく、健康に、自分たちのトマトを作っていきたいです。
今回取材させていただいたのは…
とまとや 松本和恵さん
養成塾や農業女子プロジェクトに参加するなど、勉強熱心でアクティブな松本さん。芯がある前向きな女性で、お話を伺っていると元気がもらえます。トマトのおいしさはもちろんの事、松本さんと話したい!と『夜市』へ赴く方が多い理由がわかります。
自分自身が積極的に行動することで、明るく楽しい農家生活を切り開いた松本さんは、まさに生き生きと輝く「農業女子」です。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
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新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪