コラム

最新の農薬散布機で作業効率アップ!種類とほ場にあった選び方

公開日:2024.09.17

△提供:株式会社丸山製作所

施設園芸において農薬の散布は、農作物に被害を及ぼす病害虫の防除や、農作物の生育促進と収量・品質の維持に欠かせない作業です。しかしながら、多大な時間と労力を費やす作業が多いため、農家にとって過酷な作業の一つとなっています。特に、施設内は高温・多湿の閉鎖された空間であるため、作業中に熱中症を引き起こす危険性もあります。そのような中、農薬散布作業の負担を軽減するために、さまざまな種類の農薬散布機が開発され、実用化されています。
本記事では、農薬散布機の導入を検討されている施設園芸農家の方に向けて、種類や選び方などをご説明したいと思います。

1.施設園芸における独自の特徴

施設園芸(施設栽培)における農薬散布には、露地栽培の場合とは異なった特徴があります。

①密閉された環境のため風雨などの気候条件による影響がなく、噴霧された薬液が長時間浮遊する
②施設外への農薬の飛散(ドリフト)がない
③露地栽培と比べて、頻繁に農薬を散布する必要がある
※施設内では相対湿度が高くなりやすいとともに、空気も停滞する傾向があるため、病害虫が発生しやすいことが挙げられる。病害虫が発生すると、施設内全体へ短期間で急速に増えてしまう危険性がある。

上述したとおり、ビニールハウスなどの施設内は、密閉された環境であるほか、施設外へのドリフトがありません。そのため、ビニールハウス内で農薬を散布する場合には、防護服を着用して農薬が人体に付着したり、農薬を吸引したりしないように、作業する必要があります。

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2.農薬散布機の主な種類

動力噴霧機

動力噴霧機は、最も一般的な液剤用散布機です。散布できる農薬の種類が多いことから、施設園芸作物のほか、水稲、畑作物、果樹といった露地栽培作物など、あらゆる作物が散布対象となります。多量散布(野菜類の場合、100~300L/10a程度の散布量)に適しています。
原動機からの動力により薬液を加圧して、ホースを介してノズルに送り噴霧します。ノズルから噴霧された薬液は、微細な噴霧粒子となって作物に付着することにより、防除効果を発揮します。

動力源としては、電池式、電動式およびエンジン式があります。施設園芸では、露地栽培とは異なり、電源の取得が容易なことから、電動式がよく利用されています。 また、施設園芸における防除には、施設内外に設置した電動式の可搬形動力噴霧機が多く利用されています。可搬形動力噴霧機は、同一フレーム上にエンジンまたはモーターとポンプとがセットされています。作業に際しては通常、薬液タンク、ホースおよびホース巻取機、ノズルとともに使用。これらを小型の運搬車や軽トラックに載せて移動しながら作業します。

施設園芸では、動力噴霧機と手散布ノズルとを組み合わせた散布作業がよく利用されています。動力噴霧機のノズルタイプは、作業効率の面から、複数の単体ノズルから構成されています。多く使用されているノズルは、一度に広範囲の散布が可能な環状型多孔ノズルや、スズランノズルです。

常温煙霧機

常温煙霧機は、飛散を最大限に利用して農薬を散布するため、閉鎖空間の施設園芸でのみ利用されています。少量散布(5~10L/10a程度の散布量)に適しています。コンプレッサーから送られた圧縮空気と薬液とをノズル内で混合することで、極めて微細な粒子(平均10μm程度)にしてノズルから噴出させます。一体的に装備された送風ファンなどによって、無人状態で薬液粒子を施設内全体に行き渡らせます。
加熱せずに常温で薬液を細かい霧状にできるため、加熱すると変性しやすい農薬でも使用できます。

常温煙霧機を利用すると、防除作業を省力化できるとともに、農薬が作業者にかかりません。現在、常温煙霧向けに登録されている農薬が少ないため、農薬メーカーは登録拡大に向けて動いているところです。

自動走行スプレーヤ

農薬が人体に付着する危険性の高い手散布作業を自動化したものが、自動走行スプレーヤです。
自動走行スプレーヤは、バッテリーを動力源としたモーター駆動により、畝(うね)間や栽培ベッド間を自動的に往復走行します。噴管が垂直に立ち、左右に複数個のノズルを備えた噴頭部と、モーター、バッテリー、ギアボックスおよびコントローラーを搭載した4輪の走行台車とから構成されます。既存の薬液タンク、外部動力噴霧機およびホースをつなぐことにより、無人散布が可能です。慣行の薬剤の大部分を利用できます。

【自動走行スプレーヤによる農薬散布の仕方】
最初に、畝間や栽培ベッド間を前進して農薬を散布します。作物列の端まで到達すると、あらかじめ設置していた杭(くい)や金属板などをセンサーが感知。これにより、自動的に後進に切り替わり後進して農薬を散布します。

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3.農薬散布機の選び方~3つのポイント~

施設園芸において農薬散布機を選ぶ際は、以下のポイントを考慮しましょう。

農薬散布機を導入する前に、まず、農薬を散布するほ場の面積と作物を把握することが重要です。ほ場の規模と栽培する作物を把握することにより、作業効率の低下を防げるからです。農薬の散布量は、ほ場の規模によって異なります。
また、栽培する作物によっても、適切な散布量や圧力などに違いがあります。さらに、作物の背丈や形状が違えば、必要なノズルも違います。例えば、背丈の高くない作物への散布には、霧状散布が可能なノズルなどが必要です。加えて、散布する面積、散布量や使用頻度に見合ったタンク容量を有する製品を選ぶことも大事です。

自動噴霧機能やノズル調整機能、安全装置など、必要な機能を備えた製品を選びましょう。
自動噴霧機能が搭載されていると、一定間隔で自動的に噴霧するため、手動で噴霧する必要がなく、労力が軽減されます。
ノズル調節機能を利用すると、噴霧量や噴霧角度を調節できるため、作物や散布状況に合わせて的確な散布が可能になります。 また、誤噴射防止装置や圧力調整弁などの装置が搭載されていると、安全性が高まるため、安心です。

農薬散布機の価格は、タンク容量や、機能の有無などによって幅があります。例えば、自動走行スプレーヤは、農薬散布を自動化することで作業効率の向上に大きく貢献する一方、価格は、高くなる傾向にあります。予算に合わせて、適切な価格帯の製品を選びましょう。新品の購入だけでなく、中古品の購入やレンタルを選択肢に入れておいてもよいでしょう。新品を購入する場合と比べ、コストを抑えられるからです。また、レンタルやリースの場合は、製品を試しに使ってみてから購入するかどうかを判断することも可能です。リースは初期費用を抑えられるため近年人気が高まっています。

他にも、保証期間の長い製品を選ぶと安心です。また、修理や部品交換などのアフターサービスが充実しているか確認しましょう。 加えて、周囲に実際に製品を使っている人がいれば、その人の感想や評判を参考にするのもよいでしょう。できれば、複数の人たちからの生の声を聞きたいところです。

4.施設園芸におすすめの最新農薬散布機

△提供:株式会社丸山製作所



2024年4月、北海道ボールパークFビレッジ(北海道北広島市)内にある、株式会社クボタが運営する農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT(クボタアグリフロント)」で、自動走行型農薬噴霧ロボット「スマートシャトル」がお披露目されました。

スマートシャトルは、農業用防除機でトップシェアを誇る株式会社丸山製作所が、自動走行による防除作業の省力化や稼働時間の短縮、安定性の向上など作業環境の改善を目的として、開発しました。自動走行型農薬噴霧ロボットのコンセプトモデルである「スマートシャトル」は、ほ場内に設置した2次元コードと本体に内蔵されたカメラから取得した映像情報により、機体位置や畝との距離を把握します。作物やパイプなどに衝突することなく、ビニールハウス内の畝間や通路(レーン)を自動走行します。従来の自走式のスプレーヤとは異なり、直線移動だけでなく、ハウス全体を自走できる点が特徴の1つです。これにより、防除作業の省力化や作業時間の大幅な短縮を実現できます。
同社によれば、防除準備から片付けまで240分かかっていたほ場の場合、スマートシャトルを導入することにより、作業に関わる時間を約75%も削減できるとのことです。アプリを利用すれば、スマートフォン1台で操作もできます。スマートシャトルは今後、実用化に向けてさらに改良が重ねられる予定です。

△提供:有光工業株式会社



農業用機器の製造・販売などを手がける有光工業株式会社は、2023年から、施設内の循環扇を利用しノズル部をコンパクトにした「循環扇利用型常温煙霧機」を販売。従来のファン一体型常温煙霧機では設置スペースがないなど、常温煙霧機の設置が難しかった形状の施設にも対応しています。

特に、中規模ビニールハウスでの利用に適しています。ノズルから、超微粒子化した薬液を噴霧。循環扇からの対流によって、薬液を施設内全体に均一に散布できます。タイマーによる24時間完全無人による制御のため、作業者は、農薬を調合してセットするだけで防除作業が可能です。 夜間に薬液とタイマーをセットすれば、翌朝には防除は完了。朝からは別の管理作業ができるため、作業効率がアップします。

農薬散布機は、施設園芸において農薬散布の効率化に役立つ便利なツールです。種類と特徴などを理解したうえで、予算と必要な仕様や機能とのバランスを見極めて、ご自身のほ場に適した農薬散布機を選びましょう。




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▼参考文献
〇農業食料工学会編. 農業食料工学ハンドブック. コロナ社, 2020.
〇川村恒夫. 特集, 農薬散布技術の現状と今後の展望:農薬散布機の概要. 農業食料工学会誌. 2018, vol. 80, no. 2, p. 80-83.
〇北島孝弘, 安野卓, 鈴木浩司, 桑原明伸, 井上雅弘. 特集, 施設園芸を中心とした次世代生産技術:持続可能で魅力ある農業を目指して 施設園芸における自律移動型農薬散布ロボットの開発. 機械化農業. 2022, no. 3255, p. 40-43.
〇守田航馬, 北條広, 島本文子, 升岡隆, 藤原隆之. 多様な栽培施設に対する常温煙霧処理の適用性. 植物防疫. 2024, vol. 78, no. 6, p. 332-337.
▼参考サイト
〇“GPS の使えないビニールハウス内でも自動走行で防除可能 自動走行型スマート農薬噴霧ロボット「スマートシャトル」をクボタアグリフロントにて展示開始”. 丸山製作所. 2024-04-30.
https://www.maruyama.co.jp/news/pdf/20240430.pdf#view=FitV, (参照 2024-08-05).
〇農林水産省Webサイト. “スマート農業技術カタログ(施設園芸)”. 2024-06.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/smart_agri_technology/smartagri_catalog_shisetsu.html, (参照 2024-08-05).
〇川崎勇. “ハウス防除寝てる間に… 農薬霧状に自動散布→省力化 高知で拡大”. 日本農業新聞. 2023-05-11,日本農業新聞電子版.
https://www.agrinews.co.jp/news/index/155195, (参照 2024-08-05).
〇鵜飼洋史. “ヤンマーテクニカルレビュー:農薬散布量削減と付着率向上を両立する散布方法の確立~トラクター用農薬散布機での革新的散布作業の提案~”. ヤンマーWebサイト. 2023-12-08.
https://www.yanmar.com/jp/about/technology/technical_review/2023/12_10.html, (参照 2024-08-05).
〇北海道放送 報道ニュース公式YouTubeチャンネル. “散布作業の手間が75%減少 スマホ1台で操縦できる無人散布ロボット「スマートシャトル」がお披露目 “スマート農業”は人手不足解消のカギとなるか”. 2024-04-26.
https://www.youtube.com/watch?v=l2cwg6BFOEU, (参照 2024-08-05).

ライタープロフィール

【清原 筆養父】
ライター・翻訳家・一級知的財産管理技能士の三刀流。農学修士。野菜(特に、小松菜、豆類、山芋)が大好き。農産物の栽培・加工・包装、農業資材、園芸用品、肥料、農薬、農機具などに関する技術・特許調査・分析、技術・法律文書作成、翻訳などの経験がある。アグリテックやフードテック、テロワールなどに注目している。








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