コラム
公開日:2018.03.07
「養液土耕栽培」という栽培方法をご存知でしょうか?
名前の通り、土の良さを活かしながら養液栽培の手法を使う栽培方式で、培地に土を使います。トマトやキュウリ、ナスにピーマン、白菜、レタスと様々な作物の栽培が可能です。
では、養液栽培や土耕栽培とはなにが違うのでしょうか?この記事では「養液土耕栽培」のメリット・デメリットやそれぞれの栽培方法との違いについてご紹介します。
「養液土耕栽培」とは、冒頭にも述べたように土の良さを活かしながら養液栽培の手法を使う栽培方法です。土耕栽培と同様に培地には土を使い、養液栽培と同様に基肥を減らして、液肥混入器など装置を使った自動潅水施肥で肥料と水を毎日必要量潅水します。
いわば土耕栽培と養液栽培の中間的な栽培方法で、実際に導入する場合には養液土耕栽培専用の施肥装置が必要となります。
液肥混入器を使って肥料濃度や土壌水分を制御し、安定した潅水ができるため、根にストレスを与えずに生育・品質の向上や均一性が高く、収量の増加が見込める。
液肥混入器の利用により、潅水も施肥も自動化できるため、作業時間を短縮することができます。
安定して肥料を供給できるため、肥料濃度の急変や土の乾燥の回避、地温の維持など根に対するストレスが軽減できる。また、従来の栽培方式に比べて施肥量を減らす事ができる。
10aあたり100万円~(簡易なものだと50万~)のコストがかかりますが、生育が安定することによってコストが回収できます。
土壌病害や連作障害のリスクが残るため、台木や品種が制約される。
土づくり(有機物の施用や土壌の団粒化など)や土壌消毒、土寄せ、排水、通気など作業労力やコストがかかる。
実際に養液土耕栽培システムを導入した生産者の中には、「反収・品質のバラつきが解消した」、「潅水や追肥の労力削減により作物の品質管理に当てられる時間が増えて収量・品質が安定した」といった声も聞かれます。
また、現在土耕栽培を行っている生産者にはメリットが多く、デメリットも少ないため最近は導入が増加傾向にあります。
以下の表に養液土耕栽培、養液栽培、土耕栽培それぞれのメリットとデメリットを一覧にしました。ぜひ参考にしてみてください。
この表をダウンロードする
「養液栽培」とは植物に必要な水分や養分を液体状にした肥料=液肥で与える栽培方法で土は使用しません。液肥はすぐに植物に取り込まれるため、土耕栽培に比べて植物の成長スピードが早いのも特徴です。また、養液栽培には、水耕栽培、固形培地耕栽培、噴霧耕栽培といった3種類の栽培方式があり、栽培する作物によって方式を選定します。
養液栽培は将来自動化・省力化を進めて、大規模に経営を行う企業型経営に向けた取り組みと考えたほうが妥当です。大面積の地上空間と、無数の根圏範囲を均一に正確に制御することで生育の安定性、技術の再現性を高いレベルで実現します。
制御する機器の価格が高いことから大規模栽培のスケールメリットにより、面積当たりの費用を下げて早期に投資額の回収を行うのが有利です。
もちろん小規模経営でも導入メリットをつくることは可能ですが、費用対効果のハードルが高く、規模拡大を踏まえた取り組みが前提となります。
「土耕栽培」とは土で使って植物を育てる、昔から行われてきた栽培方法です。
大規模な設備がなくても栽培が可能で、品質の高い作物を育てたい場合には土耕栽培がよいと言われています。しかし、天候による影響を受けやすく土づくりや除草作業、害虫駆除に労力がかかるといったデメリットもあります。
土耕栽培は従来の栽培方法を継続することで生産者の技術はすでに確保されているため、初期費用が掛からないことと併せると優位な面はあります。
その際は、従来の課題である連作による肥料成分のアンバランス、土壌病害、土壌の物理性(排水性、団粒構造など)・生物性(有機物の施用による肥料の微生物分解能力の維持)の影響を受けやすく、さらに土壌の緩衝力が大きく生産者のミスや環境の変動をカバーしてくれる包容力がある一方でシャープな生育のコントロールはしにくい(反応しにくい)というデメリットがあります。
地温の確保しやすさ、根の健全性、有機栽培の可能性等を含め、農業生産では引き続き重要な位置づけであることに変わりありません。
以上、養液土耕栽培のメリット・デメリットから養液栽培、土耕栽培との違いについてご紹介しました。基礎知識を学んだ上でそれぞれを比較し、自分の理想とする栽培に近い方法を選んでみてくださいね。
▼参考文献
・相対湿度の月別平年値、理科年表オフィシャルサイト、自然科学研究機構国立天文台編
<https://www.rikanenpyo.jp/kaisetsu/kisyo/kisyo_003.html>
・JAグループがお薦めする省力低コスト施肥技術ガイド、養液土耕栽培方法
ライタープロフィール
【深田】
現在、農業機器メーカーのアグリアドバイザーとして栽培指導やセミナーの講演を行っています。
以前は県の普及指導員や専門技術員を長くやっていました。「金をかければ何でもできる」が嫌いで、現場農家の立場と目線でメーカーとして何ができるのかを考えています。