コラム
公開日:2021.12.21
△画像提供:ファーストメンテ株式会社
「電解水」とは、水を電気分解したときにできる液体の総称です。病院や飲食店、食品工場などで除菌や消毒に使われるものが有名ですが、実は、農業分野でも“環境に優しい機能水”として注目を集めています。今回は、農業で使われる電解水の特徴や効果、使い方の情報をわかりやすく解説します。
電解水は、電気分解を促進する「電解補助剤」を添加した水に直流電流を流すことで生成されます。農業分野では、微量の塩化カリウムを電解補助剤として使うのが一般的です。電気分解には2本の電極が使われ、プラスの電極で「酸性電解水」が、マイナスの電極で「アルカリ性電解水」が作られます。どちらの電解水も作物に散布すると有益な効果が得られるだけでなく、成分が作物や土壌にほとんど残存しないため、安全に使用できるのが特徴です。
電気分解で作られる2種類の電解水には、どんな効果があるのでしょうか?それぞれの特徴をまとめました。
酸性電解水の主成分は、高い殺菌力で知られる次亜塩素酸です。きゅうりのうどんこ病やイチゴの灰色かび病などに対する防除効果が認められていて、殺菌剤の代わりに使用することができるため、化学農薬の使用量削減につながります。農薬取締法における「特定農薬(特定防除資材)」や、有機JASの「特定農薬」(※収穫後の散布は認証外)にも指定されていて、その効果と安全性はお墨付き。登録農薬のないマイナーな野菜を含め、あらゆる作物に使用することができます。
酸性電解水は作物や土壌へのダメージがないのはもちろん、人にも優しいので、散布時も化学農薬を撒くときのような重装備は必要ありません。通常の殺菌剤のように希釈する必要もなく、そのまま散布できるため気軽に扱えるのもうれしいポイントです。
アルカリ性電解水は、水酸化カリウムが主成分です。一定濃度に希釈して作物に散布したり、水耕栽培の養液に混ぜて使用したりすると、作物の根張りが良くなる傾向にあると報告されています。根張りが良くなると作物が水や養分を吸収しやすくなり、病害虫への抵抗力も高まるので、生育アップや収量増加も期待できます。
電解水を作るには、専用の電解水生成装置を使用しましょう。農業用の電解水生成装置には、電解槽と呼ばれる水槽が2室に分かれた「二室型」と、3室に分かれた「三室型」があります。
2室の電解槽の両方に電解補助剤である塩化カリウムを混ぜた水(塩化カリウム水溶液)を流し、各槽に入れた電極で電気分解を行う従来の方式です。
3室ある電解槽のうち、中央の電解槽には塩化カリウム水溶液を循環させますが、両側の電極を入れた電解槽には水のみを流し、ここで電解水を生成する方式です。水と塩化カリウムを混ぜずに電気分解できるので、塩分をほとんど含まない高純度の電解水を作ることができます。「二室型」で作る電解水には長期保存できないというデメリットがありましたが、「三室型」で作る電解水は劣化しにくく、一定期間作り貯めをしておくことも可能。塩分による葉焼けや機器が錆びてしまう心配も少ないため、より安心して使用することができます。
三室型電解水生成装置「SGL1000-ⅢA」/ファーストメンテ(株)
今回は、作物の殺菌や生育向上に効果のある「電解水」についてご紹介しました。人にも環境にも優しい電解水で、安心・安全な農作物づくりに取り組みましょう!
▼参考文献
○野菜の強電解水試験(第1報),「長野県野菜花き試験場報告」第12号, 2004
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030722015.pdf
○電解水の利用による食品素材の品質向上と微生物的安全性確保に関する研究, 「日本食品保蔵科学会誌」32巻3号, 2006
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafps1997/32/3/32_3_91/_pdf
▼参考サイト
○日本電解水協会
https://jewa.jp/
○特定防除資材(特定農薬)について,農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tokutei/index.html
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!