コラム
公開日:2021.03.25
「野菜の株を引き抜いてみたら、根にたくさんのこぶがついていた!」こんな経験をされたことはありませんか?症状の原因として考えられるのは、
根こぶ病もしくはネコブセンチュウによる寄生です。
とくに厄介なのが
ネコブセンチュウ。根こぶ病がアブラナ科の植物のみで発生するのに対し、ネコブセンチュウは500種以上の幅広い植物に寄生します。温暖な気候を好むので施設栽培でとくに被害が広がりやすく、一度発生すると根絶が難しいのも困りものです。農作物では、ナス、トマト、ピーマンなどのナス科。キュウリ、メロン、スイカなどのウリ科で発生すると被害が大きくなります。
△根こぶ
ネコブセンチュウとは、細長い糸のような土壌動物・センチュウの一種。体長1mm以下のため肉眼で確認することはできず、知らない間に作物の根に寄生してこぶを作ります。サツマイモネコブセンチュウやキタネコブセンチュウなどに分類され、どの種も広範囲の作物に寄生することが分かっています。
寄生された作物は養分を吸い取られて生育不良になり、被害が進むと枯死してしまうことも!サツマイモ、人参、ゴボウなどの根菜類は、ネコブセンチュウに成長点を食べられると短根や分岐根となり、商品価値を失ってしまいます。
基本的な予防策は、苗や道具に付着した土を介してネコブセンチュウが圃場に持ち込まれるのを防ぐことです。ネコブセンチュウが発生してしまった圃場では土壌くん蒸剤などの農薬による駆除のほか、抵抗性品種をはじめとした、ネコブセンチュウに強い野菜品種を使用するなどの対策が取られています。
このほか、対策のカギとなるのが土壌環境を整える土づくり。連作を避けることも大きなポイントですが、土壌改良により土の消毒や養分バランスの調整をしたり、土壌微生物の働きを活発化させるなど、土壌の抵抗力を高めてあげることが重要です。ここからは、ネコブセンチュウの被害を抑える土壌改良方法を4つご紹介します。
ネコブセンチュウを殺したり、成長を抑えたりする効果のある「対抗植物」を緑肥として使用する方法です。栽培した対抗植物を刈り取り、そのまま圃場にすき込んで分解させます。ネコブセンチュウに対する有効性が確認されている対抗植物には、ソルゴー、ギニアグラス、クロタラリア、マリーゴールドなどがあります。
多機能資材の石灰窒素を圃場に散布・混和する方法です。緩効性の窒素肥料として働くだけでなく、石灰窒素に含まれる「シアナミド」が殺センチュウ効果を発揮してくれます。有機物の腐熟を促進する効果もあるので、緑肥をすき込む時に石灰窒素を同時施用する方法も有効です。
10aあたり1t程度の米ぬかやふすまをすき込んで一時的に湛水(たんすい)したあと、農業用フィルムで土壌表面を覆って2~3週間放置する方法です。太陽光や発酵による発熱、土壌の酸素欠乏、土壌微生物の増殖などにより、センチュウ密度が低減することが明らかになっています。
水田などに水を溜めること
土壌改良資材(複合微生物資材)「カルスNC-R」/リサール酵産(株)
0.5~1%のエタノール希釈液で土壌全体を湿らせ、フィルムで覆って2~3週間放置する方法で、上記の米ぬかを使った方法とほぼ同じ効果が得られます。ハウス内に設置されている既存の潅水チューブや液肥混入器などを活用すれば、作業時間を短縮することが可能です。
複数の方法を組み合わせることで、より高い防除効果が期待できます。圃場に発生したネコブセンチュウの種類、栽培品目、必要な休耕期間などを考慮して、最適な対策をとりましょう!
▼参考サイト
〇有害線虫総合防除技術マニュアル(農研機構 九州沖縄農業研究センター)
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/archive/laboratory/karc/other/046110.html
▼参考文献
〇石灰窒素による土づくりを活かしたセンチュウ防除(日本石灰窒素工業会)
http://www.cacn.jp/technology/dayori_pdf/153_cont04.pdf
〇低濃度アルコールを利用した土壌還元作用による土壌消毒(農研機構 農業環境変動研究センター)
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/ethanol/manual.pdf
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!