コラム
公開日:2023.05.02
さまざまな作物の生育に影響を及ぼすフザリウム菌。土壌被害が広がると、農業に大きなダメージを与えることもあります。この記事では、主にトマト萎凋病の症例を紹介しながら、フザリウム菌への知識を深めていきます。
フザリウム菌とは土壌に生息するカビの一種です。植物病原菌として、さまざまな植物に影響を及ぼします。フザリウム菌は1種類ではなく、影響を及ぼす野菜や花ごとに分化しているのが特徴です。たとえば、シクラメンと胡蝶蘭では、病原菌の名前が異なります。
野菜類の病原となるのは、Fusarium oxysporum(フザリウム・オキシスポラム)と、F. solani(フザリウム・ソラニー)の2系統から分化した菌です。どちらも土壌伝染が一般的ですが、フザリウム菌に汚染された種を使うことで発生が広がる可能性もあるため、注意が必要です。
フザリウム菌は、地温が25℃から27℃に上がる時期に発病しやすく、地温が33℃を越えると発病率が下がります。土壌pHは酸性土壌を好み、中性からアルカリ性の土壌では発病しにくい傾向があります。
▲フザリウム菌に感染したトマトの根
フザリウム菌は、宿主となる作物によってさまざまな病状を引き起こします。代表的な症状として、トマト萎凋病、キュウリ、メロン、スイカなどのつる割病、イチゴ萎黄病、カボチャ立枯病などがありますが、ネギ類やホウレンソウの萎凋病、レタスの根腐病、ニラ乾腐病も同じようにフザリウム菌が原因の病状です。
トマト農家を悩ませるトマト萎凋病の症例は、下葉から萎れたような状態が続き、やがて黄色く変色して萎びていくのが始まりです。葉の黄化は少しずつ上の方へ移動しながら広がり、成長が遅れて実がつきにくくなり、やがて苗自体が枯れてしまいます。
葉が萎びて、黄化しているあたりの茎と葉柄の維菅束が褐色に変わっていたら、発病の合図です。茎が固く木化しているのが確認できます。黄変した部分の株を切ってみると、茎の導管部が褐変しているのが分かります。
▲太陽熱消毒の様子
寄生する作物によって病原菌の系統が異なることは、被害を予防するためのヒントになります。フザリウム菌は、発病に適さない環境の下では「厚膜胞子」という耐久体によって長期間を生き延びる耐性を持っています。そのため、病原菌の被害が発生した圃場では、輪作や連作を避けることが第一ステップです。殺菌剤や農薬によって土壌消毒をする方法もありますが、ハウス栽培で有効な太陽熱消毒、蒸気や熱水による消毒、コーヒーの出しがらといった有機物を施用するのも試したい方法の1つです。
また、フザリウム菌は根から侵入し、作物全体に広がる性質があります。対策として、根が傷まないような工夫が必要です。土壌の過湿、過乾燥を防ぐ、根を傷つけるセンチュウなどの防除をするなど、圃場を適切に管理しましょう。
▲センチュウ
フザリウム菌は苗が枯れて腐敗した後も数年にわたって土壌に生存し続けるため、発病株を発見したら、圃場外に持ち出して処分することも大切です。
フザリウム菌は、作物によって異なる病気を発生させる寄生性分化の性質を持つ病原菌です。そのため、作物ごとに症状の見分け方を確認すること、輪作や連作を避け、圃場の状態を適切に管理することが防除のカギになります。作物をよく観察し、病状を早めに発見して、早期の対策を心がけましょう。
▼参考サイト
〇タキイ種苗(株),トマト萎凋病
https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/atm/disease/ichou/idx_bdy.html
〇ルーラル電子図書館,フザリウム菌
http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=14652
〇(株)武蔵野種苗園,データベース,フザリウム属菌
http://www.musaseed.co.jp/disease/%E3%83%95%E3%82%B6%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E5%B1%9E%E8%8F%8C/
〇愛知県,あいち病害虫情報,病害虫図鑑トマト萎凋病
https://www.pref.aichi.jp/site/byogaichu/tomato-ityou.html
〇胡蝶蘭の愛華園芸,胡蝶蘭の育て方Q&A<胡蝶蘭の根についての相談/根の異常 2>
http://www.aikaengei.com/060n05.htm
ライタープロフィール
高橋みさと
自然に近い場所を求めて2021年に都内から郊外へ移住。
ライター業をしながら米や野菜づくりを実践しています。
趣味は登山と外遊び。
発酵に興味があり、コンポストを利用して生ごみを捨てない生活にはまっています!