コラム

ナスの促成栽培で収量・品質アップを目指す方法【上級者編】

公開日:2024.04.17

促成栽培のナスは、全収量の60%以上を4~6月の3か月間で収穫します。それは、4月以降のハウスは、温度や日射条件がナス本来の原産地であるインドの環境に近くなり、結果として葉っぱや果実の生長が早くなるためです。しかし、栽培現場では初心者はもちろん、ベテラン農家さんも「栽培指針どおりに土づくりをやり、定められた株間で定植し、摘心・剪定・追肥も欠かさずしているが、4月以降に高い収量・品質を得られない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、①水やりをどう改善するか②湿度管理をどう考えるか③側枝の管理をどうすればよいかの3点に絞って、注意点や基礎的な改善対策を説明していきます。

1.ナス栽培水やりの改善方法

これまでは、一定の土壌水分の範囲(pF1.7~2.7)で栽培した場合、ナスでは収量自体には大きな差は見られないとされており、栽培現場でもそれが通説になっています。 しかし、品質に悪影響を及ぼし、ひどいと商品価値が無くなる「日焼け果」は、土壌水分が少ないほど発生が多く、「日焼け果」の発生を防ぐためには灌水開始点の目安をpF2.0以下にする(≒pF2.0を超えさせない)ことが非常に重要になります。

△引用:平成 29 年度試験研究主要成果(岡山県) 表1 灌水開始点のp Fが収穫果実数及び日焼け果発生率に及ぼす影響z




そして、生育ステージや日射量に応じて日平均温度を変化させて管理する「平均温度管理法」における最適な灌水量は、例えば5月の合計では151リットル/㎡になるとされています。5月は、晴れの日や雨の日を通算しても、1日・1㎡当たり5~6リットルの灌水が必要になるのです。また、天候回復後に光合成を速やかにできるよう、曇りや雨の日でも1日・1㎡当たり2~3リットルの灌水をしておくのも非常に重要です。

△引用:植野・高橋:促成ナスの環境制御による多収穫技術 第1報 炭酸ガス施月条件下での温度管理が生育,収量・品質に及ほす影響

2.ナスは湿度に敏感!病気対策もできる湿度管理の考え方

ナスは光飽和点が他の果菜類より低く、薄曇りでも光合成能力の低下が少ないのが特徴です。しかし、湿度が低いと光合成が充分に行えないので、日中湿度75~80%、飽差5~8g/㎥に保つことが推奨されているなど、湿度には敏感な作物です。
ところが、5月の晴天日におけるハウス内の飽差は、何の対策を行わないと15~20g/㎥を超えることも少なくありません。このような場合、せっかく温度や光条件がナスの光合成に適していても、それを生かすことができず、結果として果実の肥大に悪影響を及ぼすのです。 飽差を適切な範囲に維持するためには、細霧冷房などの環境制御機器の利用が確実ですが、多額のコストがかかるうえに、栽培途中での施工も非常に困難です。

そこで、お勧めなのが、わらを通路に敷いておくことです。

これは、例えば麦わらの場合、浸水10分後に吸水率が77%に達するなど、灌水が多かった時の余分な水を一時的に保存しておく効果もあり、その代わりに晴天日に乾燥により水分を空気中に放出してくれる効果も期待できるからです。また、300kg/10aの稲わらを通路に張り出たマルチの上に敷くことで、夜間の湿度が6%下がることも明らかになっているため、灰色かび病などの病気対策としても非常に有効です。

△引用:農業研究成果情報 No.548(平成 24 年 5 月) 分類コード 06-04 熊本県農林水産部 地下水位の高い施設園芸ハウスでの通路マルチ及び稲ワラ施用による過湿防止効果

3.側枝の整理はどうすれば収量が増える?

この時期の促成栽培ナスの収穫果は、主枝からではなく切り戻した側枝(わき芽)から得られるものばかりになります。すなわち、側枝をどのように管理するか、もっと言うと不要な側枝を整理(剪定)することが高い収量や品質を得るカギになるのです。 側枝の生産性について高さ別に整理した結果、実際の栽培で多いV字仕立てでは、「垂直仕立て」よりも通路より80cm以下の高さに位置する下位の側枝が占める割合が多いものの、1本1本の側枝で見ると下位側枝は「稼げていない」ことが分かっています。

△引用:福岡県農業総合試験場研究報告22(2003) 「促成ナス栽培における垂直仕立の主枝本数と整枝時の作業性および収量性」




一方、省力的な「垣根仕立て」(≒垂直仕立て)では、3段以下(≒通路より80cm以下)に着生した側枝を除去しても収量は無処理と変わらないうえ、不良果の発生割合も減少します。 そして、以上のような結果になる理由としては、側枝から発生した葉で生産された光合成産物は、基本的に側枝内部で葉や果実の生長に消費されるからです。 すなわち、V字仕立てでは下位の側枝同士での競争が起きて共倒れになり、垂直仕立てでは上位の側枝が下位の側枝の生産を邪魔していることが分かります。

これらから総合すると、促成ナスでは、特に主枝を垂直に誘引する場合に下部の側枝整理が必須です。また、V字仕立ても下位の側枝は混みすぎないように整理しましょう。具体的には、㎡当たり主枝の配置密度を3本程度に設定する場合、各主枝の側枝数は、多くても9個程度に抑えましょう。そうすると、収量性の向上はもちろん、作業性の向上や側枝から出た葉の混みすぎによる病害虫の発生防止にもつながります。





以上、促成ナスの光合成物質を効率的に生産することで、春以降の収量や品質を向上させるヒントを整理してみました。色々書きましたが、結局は、若いころの私がお世話になった果菜類の「名人」農家さんが日々おっしゃっていた以下の口ぐせに尽きると思います。
「天候と相場は時の運で、それによって野菜の生育や収益性も変わる。でも、充分な栽培管理をしていないと、なぜか時の運も味方しないんだよ」





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▼参考サイト
〇「施設野菜のかん水開始点とかん水量に関する研究 (2)」
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030270980.pdf
〇「ナス促成栽培での日焼け果の発生は3月以降の灌水で軽減される」
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/564921_4563627_misc.pdf
〇平成29年度試験研究主要成果(岡山県), 6.ナス促成栽培での日焼け果の発生は3月以降の灌水で軽減される ,促成ナスの環境制御による多収穫技術(1)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030921559.pdf
〇今さら聞けない野菜の発育メカニズム ②生長,2024.2園芸新知識
https://www.takii.co.jp/tsk/bn/pdf/20040234.pdf
〇愛知県農業総合試験場,ナスにおける環境制御ガイドライン
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/412058.pdf
〇施設園芸における環境制御技術とその活用事例,令和4年3月富山県農林水産部農業技術課
https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_zirei/brand/attach/pdf/201023_3-28.pdf
〇敷きわらおよびフィルムマルチが無暖房ハウスの夜間温湿度環境におよぼす影響,農業気象(J.Agr.Met)40(4) :393-397,1985
https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/40/4/40_4_393/_pdf
〇農業研究成果情報,地下水位の高い施設園芸ハウスでの通路マルチ及び稲ワラ施用による過湿防止効果,№548(平成24年5月)分類コード06-04熊本県農林水産部
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/101805.pdf
〇促成ナス栽培における垂直仕立の主枝本数と整枝時の作業性および収量性,福岡県農業総合試験場研究報告22(2003)
https://www.farc.pref.fukuoka.jp/farc/kenpo/kenpo-22/22-16.pdf
〇8月定植の促成ナスの垣根仕立て栽培における品質向上のための摘葉および側枝除去技術
https://www.farc.pref.fukuoka.jp/farc/seika/h15b/06-27.pdf
〇夏秋ナスの光合成産物の動態調査および仕立て・整枝法の改良,農林水産省農林水産技術会議事務局筑波学連携支援センター
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010712410.pdf

ライタープロフィール

【石坂晃】
1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。










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