コラム

果菜類の単為結果「品種はどんなものがある?」栽培するメリット・デメリットをご紹介

公開日:2024.08.19

ハウスで果菜類を栽培するときには、トマトトーン®液剤などの植物ホルモン剤を薄めて一つ一つの花に単花処理するか、マルハナバチやミツバチなどの訪花昆虫をハウス内で放飼するかのいずれかで果実を着果させる方法が一般的です。
しかし、単花処理は非常に手間がかかり、例えば促成ナスの場合は全作業時間の20%程度を占めています。また、訪花昆虫の放飼は、ハチ類に被害が及ばないような農薬を選定したり、逃亡防止のための網をハウスの換気部に設置しなければならないなど、気を使うことが多いものです。 そこで、単為結果性の品種を用いれば、単花処理や訪花昆虫の放飼が必要なくなるので、安心して省力的な果菜類の生産が可能です。

この記事では、果菜類で単為結果が起きるメカニズムや主な単為結果性品種を説明するとともに、単為結果性品種を用いるメリットを紹介します。また、単為結果性品種を適切に栽培しないことで生じるデメリットもあわせて解説します。

1.単為結果が起きるメカニズム

△図1


図1に単為結果性がない品種の着果メカニズムを示します。
単為結果性がない品種では、おしべから出た花粉がめしべに付着し、環境条件が適切であれば花粉管が伸びて受精します。受精すると、種子が成長する過程で子房内のオーキシン濃度が高まり、落花を防ぐとともに、種子が成熟できるように子房自体も成長します。人間が利用できる大きさまで成長した果実を摘み取ることで収穫します。

しかし、受粉がないと受精せず、種子ができないので子房内のオーキシン濃度が下がり、落花や肥大不良(ナスでは「石ナス」と呼ばれます)が起きます。

一方で、環境条件が悪く、受粉・受精をしなかった場合、合成オーキシン剤を単花処理することで、子房内のオーキシン濃度を人工的に維持することにより、人間が利用できる大きさまで果実を成長させることができます。この場合の果実内は、受精できなかったため種子がなく、未発達の胚珠がそのまま残ります。

△図2


以上を前提に、図2に単為結果性品種の着果メカニズムを示します。 単為結果性品種は、受粉・受精の有無に関係なく子房内のオーキシン濃度が維持できるため、種子ができなくても果実を成長させることができます。促成作型で単為結果性品種を栽培した場合、合成オーキシン剤で単花処理をしたときと同様に、未発達の胚珠がそのまま残るのが特徴です。

2.主な果菜類の単為結果性品種

△提供:地球温暖化と農林水産業「結実不良のナス(石ナス)と正常のナス」




ナス

ナスは、株内の様々な位置に花が咲くことから、単花処理にかかる労働時間がかかることが以前から問題になっていました。このため、単為結果性品種の育種が盛んに行われてきた歴史があります。

現在日本で市販されている単為結果性ナス品種は以下の2つに分けられます。
1つは、落花が多いものの残った果実は成長に肥大する性質が強い「Talina」と、発育不良の石ナスになるものの落花が少ない日本の在来品種を交配させて育成した系統「AE-P03」に由来する品種です。 品種の具体例として、「あのみのり」、「はつゆめ」、「省太」があります。

もう1つは、子房内のオーキシン分解をつかさどる遺伝子「pad-1」が変異し、受粉・受精をしなくても子房内のオーキシン分解を抑える(≒オーキシン濃度が高いままである)ことで単為結果性を引き起こす系統に由来する品種です。品種の具体例として、「PC筑陽」、「PCお竜」、「PC鶴丸」があります。

キュウリ

栽培現場ではあまり意識されていませんが、現在日本で栽培されるキュウリ品種のほとんどが単為結果性品種です。これは、ハウス栽培の増加に対応するため、昭和30年代に受粉や花粉発芽条件が悪い施設内でも生産性が高い品種が育種され、その子孫がほとんどを占めているためです。

大玉トマト

トマトの単為結果性品種育成はナスより古い歴史があり、1994年には「ラクーナファースト」が育成されています。品種の具体例として、「ハウスパルト」、「ドルチェレッドビッグ」などがあります。

ミニトマト

ミニトマトとトマトは植物学的には同じ種の野菜であり、トマトと全く同じ育種方法で単為結果性品種を育成できます。品種の具体例として、「エコスイート」、「べにすずめ」などがあります。

3.単為結果性品種を用いるメリット

労働時間が短縮できる  

単為結果性品種を用いることで期待できるのは、単花処理にかかる労働時間を丸ごとなくせることです。10a当たり労働時間の省力効果は、冬春ナスで400時間、6段栽培の大玉トマトで45時間程度です。

単花処理に伴う障害が起きない

単花処理用の合成ホルモン剤が生長点にかかると、葉の奇形が起きたり、大玉トマトでは濃度が高い場合に先とがり果が発生しますが、単為結果性品種はそのような心配は不要です。

訪花昆虫向けの防除体系を組まなくてもよい

特にトマトやミニトマトの場合、タバココナジラミによって媒介されるウイルス病である黄化葉巻病対策が欠かせません。しかし、マルハナバチを放飼している場合、殺虫剤の選択を誤るとハチまで死んでしまうことがよくあります。現に、殺虫剤のなかにはマルハナバチやミツバチへの影響日数が30日以上あるものも少なくありません。よって、単為結果性品種を用いることで、ハチ類への影響日数を気にせずに栽培できるのも魅力です。

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4.単為結果性品種のデメリット

管理作業の手間がかかる

単為結果性品種は、咲いた花のほとんどすべてが着果・肥大するため、一般品種よりも丁寧に管理作業を行う必要があります。
例えば、単為結果性ナス「PC筑陽」では、一般の「筑陽」より樹勢がおとなしいため、ハウス内の温度維持、摘葉・摘芯などによる樹勢コントロール、収穫サイズを大きくしすぎずに収穫することが重要です。
また、トマトの場合、摘果を怠ることで平均1果重が低下する恐れがあります。

品種選択の幅が狭まる

ここ10年で増えてきたとはいえ、単為結果性品種の数はまだまだ少ないのが現状です。
特に、大玉トマトの場合は、早熟作型で比較した場合、一般品種「桃太郎グランデ」より単為結果性の3品種は概して平均1果重が低く、「ハウスパルト」では果頂部の褐変が起きやすいなどの課題も報告されています。
よって、単為結果性品種を導入する前に、販売先が求める果実品質を的確に把握することが必要です。

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以上、この記事では果菜類の単為結果性品種について、メカニズム、具体的な品種例、導入時の利点や注意点を説明してきました。 単為結果性をもたらす遺伝子が解明されるなど、近年の研究の進展は目覚ましいものがあります。今後も果菜類の単為結果性品種はますます増えていき、より楽に野菜を栽培できることが期待できます。




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▼参考サイト
〇アグリナレッジ, 花粉媒介昆虫と天敵を利用した施設ナス栽培体系の経営的評価
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010691418
〇アグリナレッジ, 彼岸節成
https://agriknowledge.affrc.go.jp/media/chart/0000001375/0000003905
〇農研機構,高温条件下における単為結果性ナスの結実性
https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/vegetea/2005/vegetea05-14.html
〇農研機構,ナスpad-1変異体の単為結果性機構
https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nivfs/2020/pad-1.html
〇アグリナレッジ,トマトの単為結果性と種子形成阻害について
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010902465.pdf
〇農研機構,単為結果性トマト‘ルネッサンス’の遺伝特性を利用した省力栽培技術
https://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/seika/kanto16/10/16_10_03.html
〇こうち農業ネット,各種農薬の主な天敵類および受粉用ハチに対する影響表
https://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/download/?t=LD&id=5578&fid=60629
〇AGRIくまもと, ナスの厳寒期の栽培管理について~草勢を落とさないための3つのポイント~
https://agri-kumamoto.jp/cultivation/data/%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%8E%B3%E5%AF%92%E6%9C%9F%E3%81%AE%E6%A0%BD%E5%9F%B9%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%EF%BD%9E%E8%8D%89%E5%8B%A2%E3%82%92%E8%90%BD%E3%81%A8%E3%81%95/
〇地方独立行政法人 北海道立総合研究機構(道総研),単為結果性トマト品種の生育,収量および品質特性評価と摘果の影響*1 https://www.hro.or.jp/upload/16488/104-7.pdf
〇福井市,単為結果性トマトによる省力化と経費削減の調査
https://www.city.fukui.lg.jp/sigoto/nourin/engei/p026344_d/fil/1-9yasai.pdf

ライタープロフィール

【石坂晃】
1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。










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