コラム
公開日:2026.02.03
施設栽培では、害虫対策として定期的な防除が欠かせず、結果として年間の防除回数が多くなりがちです。防除回数が増えると、薬剤抵抗性が生じやすくなるほか、受粉促進用のハチ類に影響が少ない農薬を選ばねばならず、防除の組立てが難しくなります。
ところが、生物農薬をうまく使うことで、防除回数が減少するとともに、薬剤抵抗性がつきにくくなり、ハチ類の管理も簡単になります。
そこでこの記事では、殺虫効果がある生物農薬について、種類と使用方法を説明した後、生物農薬の一般的なメリットや使用上の注意点について説明し、最後に「防除回数が削減できた実例」をご紹介します。

施設栽培の害虫防除に用いられる主な生物農薬について、一般的な化学農薬とどれくらい異なるかに焦点を当てて分類しました。以下、それぞれを簡単に説明します。
化学農薬にもっとも近い使用方法ができるのが、BT剤(特に死菌タイプ)です。
BT菌(バチルス・チューリンゲンシス菌)の増殖時には殺虫性たんぱくの結晶を作ります。チョウ目の昆虫がこの結晶を食べると腸内で毒に変わり、動けなくなります。そのうち腸の外にも毒が回るため、2~3日で死んでしまうのです。
BT剤はハチ類や他の天敵への影響が少ないため使いやすい薬剤です。チョウ目(オオタバコガ、ハスモンヨトウ等)やコガネムシの幼虫のみ効果を発揮します。
アブラムシ、アザミウマ、ハダニ類などの防除には、微生物殺虫剤を用いるとよいでしょう。
BT剤は、化学農薬とほぼ同じ使用方法や注意点を守れば安心して使用できます。ただし、希釈した薬液をすぐに使用しなければ、効果が落ちてしまうため注意が必要です。
微生物殺虫剤は、アブラムシやアザミウマ、ハダニなどの成虫・幼虫に病原性のカビなどを感染させて殺す薬剤です。
化学農薬やBT剤と同様に散布で防除できますが、いくつかの使用条件があります。
・一定の温度(18~28℃)でないとカビが増殖しない
・水に希釈して散布する
・紫外線に弱いため、夕方に散布する
製造後有効期限がBT剤では数年間設定されていることに対し、微生物殺虫剤では6か月~1年程度と短いため注意が必要です。
水に希釈して散布するため、ハウス内が過湿になることがあります。
また、夏場の施設内気温は28℃を大きく超えるため、カビの増殖に適さない時期があります。このような場合、捕食性昆虫やダニが入った天敵資材が登録・販売されていますため、使用を検討してみましょう。
捕食性天敵は、アブラムシやハダニ、コナジラミなどの害虫を捕食することで、防除します。
例えば、スワルスキーカブリダニ剤「スワルスキー」の場合、250mlのボトルには、スワルスキーカブリダニが25,000頭入っています。
放飼後は、アザミウマの1齢幼虫では1日に5頭、コナジラミの卵では1日に10~15個食べながら、1日に2個の卵を産んで行きます。このことで、最初にボトルに入っている個体が寿命で死んでも、次の世代が害虫を食べてくれるため、条件さえ整えば、長期間にわたり防除効果があります。
スワルスキーカブリダニの場合、35℃までは活動可能とされているため、微生物殺虫剤が使用できない時期にも使用できることが多く、大きなメリットといえます。
捕食性昆虫は放飼後ただちに害虫を食べ始めるのに対し、寄生性昆虫は放飼後に害虫に卵を産み付けることで防除します。
例えば、ハモグリバエ類に登録のある「ミドリヒメ」の場合、15 mlのボトルにハモグリミドリヒメコバチ成虫(すべて雌)が25頭入っています。
放飼後、成虫は1日に約15個の卵(生涯で約300個)を、天敵幼虫の餌となるハモグリバエ幼虫に産みながら防除していくのです。そして、25℃では約2週間で世代交代していくため、条件が良ければネズミ算式に天敵が増えていきます。
捕食性天敵、寄生性天敵とも生き物がそのまま入っているため、到着後ただちに放飼するようにしてください。
以上のように、生物農薬は様々な種類があります。以下の一覧表も参考になりますので、気になる方はチェックしてみてください。

生物農薬は一般的な化学農薬と性質が大きく異なるため、かしこく使用するためには、生物農薬に共通するメリットや使用上の注意点を理解しておくことが重要です。
例えば、微生物農薬「ボタニガードES」では「散布時に18~28℃、散布後15~24時間は湿度80%以上」でないと定着しません。また、「スワルスキー」、「気温15~35℃かつ湿度60%以上」でないと活動しないため、使用タイミングや使用後の環境調節は非常に重要です。
例えば、BT剤の場合はチョウ目やコガネムシの幼虫、「ミドリヒメ」の場合はハモグリバエ類幼虫にしか効果がありません。この2剤で防除しているハウスでアブラムシが出た場合、例えばナミテントウを製剤化した「テントップ」などで防除する必要があります。
また、カメムシ類に効果がある生物農薬はないため、別に化学農薬での防除が必要です。
これは、2つの理由が考えられます。
①生物農薬には即効性がなく、実際に害虫を防除しはじめるまで数日~10日間かかる
②害虫より天敵の方が増殖速度が遅い
以上のことから、特に天敵をその作で初めて導入するときは、害虫の発生初期、できれば零に近い害虫密度で行うのが理想です。
天敵は昆虫やダニなので、殺虫剤で全滅することがあります。
また、微生物殺虫剤はカビなので、殺菌剤を混用すると薬液の中でカビが死滅することがあります。このような事故を防ぐためには、各メーカーの説明資料をよく読み、生物農薬に影響が少ない化学農薬を選定しましょう。

ここからは実際に防除回数が削減できた成功事例をご紹介します。
事例1.埼玉県(半促成キュウリ、スワルスキーカブリダニ)
天敵を利用していない2023年の殺虫剤使用回数は14回であったのに対し、天敵導入により、翌2024年はアザミウマ類やコナジラミ類を対象とした殺虫剤使用回数が4回に減少しました。
事例2.滋賀県(促成いちご、苗の炭酸ガス燻蒸+ミヤコカブリダニ)
2017年の定植後(年内)のハダニ防除回数は43回であったのに対し、天敵や炭酸ガス燻蒸の導入により、2019年はハダニ防除回数が11回に減少しました。
事例3.栃木県(長期どりアスパラガス、ククメリスカブリダニ+ボタニガード)
天敵や微生物殺虫剤を利用していない2022年のアザミウマ類防除回数は10回であったのに対し、天敵や微生物殺虫剤導入により、翌2023年はアザミウマ類の防除回数が6回に減少しました。
以上、本記事では、殺虫効果がある生物農薬について、種類と使用方法、一般的なメリットや使用上の注意点を説明し、防除回数が削減できた実例を紹介しました。
生物農薬、特に天敵が近年急速に開発された背景は、開発者の地道な努力があります。
例えば、ナミテントウを製剤化した「テントップ」は、「飛ばない個体」が製剤化されていますが、飛ぶかどうかを測定する装置「フライトミル」を開発した後に、35世代かけて飛ばない個体だけを選抜して増殖したとされています。開発者の地道な努力により、これからも我々を驚かすような生物農薬が開発され、生産現場に普及していくことでしょう。
▶ 次回の記事では「生物殺菌剤」について解説します。
▼参考サイト
〇千葉県,BT剤による害虫防除
https://www.pref.chiba.lg.jp/annou/shokubo/documents/r7shishin010806.pdf
〇農研機構,微生物農薬を用いた野菜類の微小害虫とうどんこ病を対象としたデュアルコントロール技術マニュアル
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/nipp_dual_control_tecmanual.pdf
〇Arysta LifeScience,天敵殺虫剤スワルスキー®
https://www.arystalifescience.jp/catalog/p_swalski.php
〇Arysta LifeScience,ミドリヒメ®
https://www.arystalifescience.jp/catalog/p_midorihime.php
〇農林水産省,マメハモグリバエの天敵ハモグリミドリヒメコバチ,沖縄県農業試験場 害虫研究室 大石 毅,
https://www.maff.go.jp/pps/j/guidance/pestinfo/attach/pdf/index064_078-7.pdf
〇アグロ カネショウ株式会社,テントップ(天敵)
https://www.agrokanesho.co.jp/product/view/116
〇埼玉県,半促成栽培きゅうりにおける天敵導入技術の実証,令和6年度作成(試験実施:令和3年度~)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/251334/04-1_titibu_kyuuri.pdf
〇滋賀県,CO2燻蒸+天敵によるイチゴの農薬削減,湖北農業普及指導センター
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/5209084.pdf
〇栃木県,長期どりアスパラガス栽培における天敵農薬を用いたアザミウマ類の防除」の実証
https://www.pref.tochigi.lg.jp/g04/green/documents/asuparagasu-manual.pdf
〇天敵の育種 飛ばないテントウムシ,化学と生物 Vol.53,No.8,2015
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/8/53_542/_pdf/-char/en