コラム
公開日:2019.08.29
近年、日本の夏は猛暑日が続き農業の現場でも高温状態に悩まされています。
ビニールハウス内の高温状態が続くと作物が生育障害を起こし、着果不良や草勢低下、最悪の場合は枯死する恐れがあるため、夏場の高温対策は非常に重要な課題となります。
高温対策には様々な方法があり、遮熱・遮光資材を使った対策ではみなさんもご存知の遮光ネットや遮光カーテンを使う方法があります。しかし近年、屋根にスプレーするタイプの“遮光塗料”を使った遮熱対策に注目が集まっています。
そこでこの記事では遮光塗料を使った高温対策方法やその効果、一般的な遮光資材との比較についてご紹介します。
遮熱塗料とは、夏場の農業用施設内の温度上昇を防ぐため、屋根の部分に使用する特別な塗料です。ビニールハウスへの塗布は、遮熱塗料の原液を希釈し、動力噴霧機で屋根の外側からスプレー状に散布します。(※詳しい塗布方法は目次3.をご覧ください)
遮光塗料は高温期の品質向上や収量増加、労働環境の改善を目的として利用されていますが、実際にはどのような効果が期待できるのでしょうか。
抑制のトマト栽培ハウスでミストを使ったミスト区と遮熱塗料を使った遮熱塗料区(ミストなし)で植物体温度を測定・比較したところ、遮光塗料区のほうが平均で2.4℃低い葉温、2.3℃低い果実温を観測されました。
※ミスト区のミスト条件:ハウス温度25℃以上、湿度55%以下の条件で20秒おきに15秒間噴霧
※遮熱塗料区の条件:レディシステムジャパンの遮熱塗料「レディヒート」使用
ミストを使用した場合、ハウス内の気温は下がりますが熱線は強いまま作物に届いてしまうため、葉や果実は熱くなってしまいます。しかし、屋根に遮熱塗料を散布することで熱線自体を減らすことが出来るので、実際の葉・果実温度は低くなるのです。
遮熱とは、文字通り「熱を遮る」こと。ビニールハウスは直射日光や外気温の熱にさらされています。遮熱塗料を外側から使用することで、外の熱をハウスの内側に伝えづらくなる効果を持っています。 そんな遮熱効果のある園芸資材には遮熱カーテンや遮熱フィルム、遮光塗料などがあります。 それぞれの特徴を見てみましょう。
ハウス用に市販されていて、天井付近に吊り下げるネット上のカーテンです。内張りタイプと外張りタイプがあります。遮熱カーテンは設置方法が吊すだけという簡単なこと。さらに、遮熱にくわえて遮光や保温の効果もあるので四季を通じて活用できる資材です。
日光の紫外線をカットして、適度にハウス内の明るさを調整します。ハウスに外張りしたり、トンネルにベタ掛け資材と一緒に張って使用します。遮光効果が高いので、夏の高温状態を防ぐ効果が期待できます。
遮熱効果に優れていながら、遮光効果がほぼない点が特色。ハウス内の明るさを維持できるので、作物の光合成に影響を与えません。そのため、近年徐々に普及している遮熱資材です。
ビニールハウスの屋根や外周に動力噴霧機で直接希釈液を吹き付けます。
遮熱塗布剤「レディヒート」/(株)レディシステムジャパン
では一般的な遮光資材と遮熱塗料ではどのような効果の違いがあるのでしょうか。
トマト栽培の屋根型連棟ハウスにて、遮熱塗料を散布せずに遮光カーテンを利用した対象区と遮熱塗料を散布した塗布区で比較実験を行ったところ、塗布区の方の果実温が2.5℃低い結果が観測されました。また、体感温度も「全然違う」と感じられる他、着色不良果も大きく減少しました。
※対象区の条件:遮光率50%の遮光カーテン全閉
※塗布区の条件:対象区と同様の遮光カーテン全開、レディシステムジャパンの遮熱塗料「レディヒート」使用
遮光カーテンの場合はハウス内に熱が入ってきてしまいますが、遮熱塗料の場合は屋根面で遮熱をするため、ハウス内に熱が入りにくくなります。また、カーテンを閉めると熱が逃げにくくなるデメリットもあるため、カーテンを開けたままにできる遮熱塗料のほうが“果実温が低くなる”という結果が出たのです。
遮熱とよく似た言葉に「断熱」があります。断熱とは、外側の熱を内側に通しづらくするとともに、内側の熱も外側に伝えづらくします。
つまり、遮熱資材は温度差が大きいほど効果が期待できますが、断熱資材の場合は、一度外側の熱が内部にこもってしまうと、逆に断熱効果で熱が外への逃げ場を失ってしまい、施設内の温度はさらに上昇します。
そのため、外気温が高くなる夏場は遮熱、暖房などで室温を温め保温する必要のある冬場は断熱をします。
ビニールハウスの屋根に遮熱塗料を塗布する手順はとてもシンプルです。
【1】水を貯めたタンクに遮熱塗料を溶かし入れて、よく攪拌します。
【2】鉄砲タイプの動力噴霧機で屋根に散布していきます。
パイプハウスの場合は、外周からゆっくり歩くくらいのスピードで屋根に向かって散布します。
連棟ハウスの場合は、一度谷の部分に上がってから、ガラスやプラスティックなどの屋根部分に直接散布します。クリアだった屋根が遮熱塗料の効果で一様に半透明になれば作業完了です。
散布後、外側から熱線が当たる角度によって屋根が赤銅色になるのがわかります。遮熱塗料の効果が発揮されている証しです。
日差しが強くなり始める5月頃に塗布すれば、9月頃まで効果を持続することができる遮光塗料もあるため、屋根への塗布は1年に1度の作業で済みますよ。(※持続効果は遮熱塗料によって異なります)
この記事ではトマトの事例をご紹介しましたが、他にもキュウリやイチゴ、バラやキクなどの花卉など様々な作物や花卉で効果を発揮しています。年々高温化していく日本の夏から大切な農作物を守るため、遮熱塗料の導入も検討してみてはいかがでしょうか。
▼参考サイト
●レディシステムジャパン、製品の活用事例
<https://redusystems-japan.seiwa-ltd.jp/case>
●遮熱本舗、遮熱とは
<http://www.leadgiken.com/barrier.html>
●㈱アイ・エイチ・エス、夏の遮熱、遮光対策資材
<http://ihsagrisheet.client.jp/summer/>
ライタープロフィール
【緒方裕理】
健康と環境に配慮した農業を第一としており、ハウス栽培や有機ブドウ栽培を経験しています。また農業に関心のある方を増やすために、身近にできる農業のやり方について研究しています。施設園芸に使える知識と経験をご提供していますので、ぜひご覧ください。
親の介護をしながら、実家の農園作りに勤しんでいます。