コラム
公開日:2021.08.20
プリプリとした食感と濃厚な味わいが特徴の海の恵み、カキ。農業の現場では、そんなカキを食べた後に残る貝殻「カキ殻」が肥料として再利用されています。塩抜きした貝殻を焼いたり乾燥させたりした後、土壌に混ざりやすいように細かく砕いた肥料で、主成分は炭酸カルシウムです。100%天然素材に由来する有機石灰肥料として活用されています。
石灰肥料といえば消石灰や苦土石灰などが定番ですが、カキ殻は、そんな石灰肥料の中でも抜群に扱いやすい資材です。失敗が少ないので、農業初心者の方にもおすすめです。今回は、そんなカキ殻の特徴や効能、散布方法について詳しく解説します。
カキ殻の最大の特徴は、ほかの石灰肥料に比べて効き目がおだやかなこと。保証成分のアルカリ分は消石灰が60~75%程度、苦土石灰が50~60%程度なのに対し、カキ殻は40~50%と低く、じわじわと効き目があらわれるタイプの肥料です。即効性はないものの、消石灰のように水と反応して熱をもつことがなく、やりすぎによる生育障害も起こりにくいので、安心して使うことができます。
アルカリ性のカキ殻は、酸性に傾きがちな土壌を中和させ、栽培する作物にとって最適な土壌pHに調整することが可能です。アブラナ科野菜の根こぶ病など、酸性土壌で発生しやすい土壌病害を予防する効果も期待できます。
カルシウム・マグネシウム・マンガン・ホウ素・亜鉛など、カキ殻には作物の成長に必要不可欠な成分がたっぷりと含まれています。これらの成分が土壌に補給されることで、生育障害や病害虫の発生を防げるだけでなく、収量や食味の向上にも効果的です。
多孔質構造をしているカキ殻には、土壌の物理性を改善する働きもあります。カキ殻の表面にあいた無数の細かい穴が土壌の透水性や通気性をアップさせ、微生物の活動を促しながら、団粒化したふかふかの土壌をつくり出してくれます。
カキ殻は、作付け前に土壌改良材として使用するのが一般的です。全面散布後に耕起して、土壌とよく混ぜ合わせましょう。
作付け1週間前~当日が目安です。消石灰や苦土石灰は、施用後、作付けまでに1~2週間ほど時間をおく必要がありますが、カキ殻は施用後すぐの播種や定植も可能です。
10aあたり100~200kgほどが目安ですが、土壌pHや栽培する作物に応じて調整するようにしましょう。消石灰や苦土石灰とは異なり、窒素肥料との同時施用も可能なので、堆肥や基肥と一緒に散布して作業を効率化することもできます。
野菜・果樹全般に使用できますが、ブルーベリーなどの強酸性土壌を好む作物への使用は避けましょう。
カキ殻は、作付け前の土づくりに大活躍する便利な資材です。近年はSDGsの観点からも注目を集めています。石灰肥料の扱いに慣れていない方でも安全かつ効果的に使うことができるので、ぜひ気軽に取り入れてみてください。
▼参考サイト
○丸栄株式会社
https://hiroshima-maruei.com/fertilizer/
○株式会社グリーンマン
http://www.greenman.co.jp/
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!