コラム
公開日:2020.02.17
2019年10月より、日本国内において「ゲノム食品」の流通が解禁となりました。ゲノム食品とはゲノム編集技術を利用して生産された食品のことで、今後の食糧生産や、その技術の発展に大きく影響するとして注目を集めています。
今回はゲノム編集技術の概要や、似ている技術のひとつである「遺伝子組み換え」との違い、農業に与える影響などについて解説していきます。
「ゲノム」という言葉は、聞きなれないという人が多いのではないでしょうか。ゲノムとは、生物の遺伝情報の全般をひっくるめて指す言葉です。私たち人間にはヒトゲノムが存在しますし、動物や植物など全ての生物には必ずゲノムが存在しています。
ゲノム編集技術とはこのゲノムの特定の箇所を切断し、生物の特徴を変化させる技術のことです。これだけ聞くとかなり人工的な技術という印象を受けるかもしれませんが、ゲノムの切断は自然界でもごく普通に起こる現象でもあります。自然の放射線を浴びたり、紫外線を受けたりなど、様々な刺激によってゲノムは自然に切れるものなのです。
たいていの場合はその欠損を修復して元通りになろうとしますが、ごく稀に修復ミスが起こることがあります。この時にゲノムの内容が変わり、その生物の特徴が変化します。特にその変化が顕著な場合は「突然変異」と呼ばれることもあります。
この変化を人為的に起こすのがゲノム編集技術であり、食品の生産性アップや品種改良の効率化など、様々なメリットが期待されています。
ゲノム編集技術は今後の食糧生産に大きな影響があるとされています。では農業にフォーカスしてみると、どのようなメリットが考えられるでしょうか。
まずひとつ目に、生産性のアップが挙げられます。例えば、病気に強い特徴を持たせたり、収量を向上させること等が可能になります。
特に日本農業は生産者の高齢化や、後継者不足など、労働力の不足が大きな問題になっています。管理作業の労力が減り、収量が向上するのはとても大きなメリットと言えるでしょう。
ふたつ目に品種改良の効率化が挙げられます。ゲノム編集技術により、品種改良にかかる時間と労力が大幅に削減されると言われています。
これまでの品種改良は、異なる品種を掛け合わせる方法が一般的でした。しかし、狙い通りの特徴を持った個体が発現する可能性は低く、膨大な量の実験と時間が必要とされていました。
しかし、ゲノム編集技術であればゲノムの特定の箇所を切断できるので、狙い通りの特徴を持つ個体が発生する可能性が飛躍的にアップします。
これにより、今まで数十年かかっていた品種改良が数年で行えるという見立てもあります。生産者としては、より育てやすい品種を選択できるようになったり、ブランド銘柄の開発が加速したりと様々なメリットが受けられるようになるでしょう。
食品の安全性や情報の透明化が求められる昨今、ゲノム編集食品も例外ではありません。
食品の安全基準を定める厚生労働省では、ゲノム編集食品について「安全性審査の義務はない」としています。しかし一方で、ゲノム編集食品に似ている「遺伝子組み換え食品」は対象の企業に対して安全性審査が義務付けられています。この両者の違いは一体どうしてなのでしょう。
遺伝子情報を操作するという点では両者に違いはありません。しかし遺伝子情報の一部を「切断」するゲノム編集技術に対して、新たに別の遺伝情報を「組み込む」のが遺伝子組み換え技術です。言い換えると、自然界でも起こりえる変化がゲノム編集で、自然界では起こりえないのが遺伝子組み換えということです。
そのためゲノム編集で起こる変化は、自然界で起こるものや従来の品種改良と同等の範囲内であり特段の危険はないとして、安全性審査は不要とされているのです。また、食品表示基準を定める消費者庁も同様の理由で、表示の義務はないとしています。
ゲノム編集の技術はもともと農業のみに特化した技術ではないので、これまで聞いたことがなかったという人もいたかもしれません。しかし新しい技術の開発は、農業の今後の在り方にも確実に影響を与えるので、今後こうした関連情報にもアンテナを張ってみてはいかがでしょうか。
▼参考サイト
〇解禁「ゲノム編集食品」とは,加藤綾子【3分でわかる】YouTube
https://youtu.be/uP840E750Wo
〇あなたの疑問に答えます,ゲノム編集技術,ゲノム編集の新たな育種技術(NPBT),農林水産技術会議
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/anzenka/genom_editting/interview_1.htm
〇解禁!“ゲノム編集食品” ~食卓への影響は?~,NHKクローズアップ現代
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4331/
〇ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領,厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000549423.pdf
〇ゲノム編集技術応用食品の表示について,消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/genome/pdf/genome_190919_0001.pdf
ライタープロフィール
【オオタニ コウスケ】
北海道出身。
酪農経営について学んだ後、大手農業機械メーカーにて勤務しました。現在は機械メーカーで培った経験と知識を元にライターとして活動しています。得意分野は酪農、トラクタ、作業機、噴霧器やポンプに関することです。