コラム
公開日:2020.09.30
環境測定装置「プロファインダー」を導入し、栽培に関する考え方を変えた土生農園の土生(はぶ)さん。数値を基に栽培環境を見直していくと、あっという間に収量が2倍になり、“すこぶる美味しい”イチゴができるようになりました。さらに、統合環境制御盤「Next80」を導入してからは作業効率が上がり、現在は販路拡大を目指しています。
今回は統合環境制御盤「Next80」を導入後、さらなる品質向上を目指し、新たに導入した 灯油式低温CO₂局所施用システム「真呼吸」を使った新しい取組み をご紹介します。
目次
灯油式低温CO₂局所施用システム「真呼吸」を導入したのはなぜですか?
ハウスを建てた当初は別のメーカーさんのCO₂発生器が入っていました。しかし、「真呼吸」の発売を聞いて、すぐに交換しました。まだ2ヶ月しか使っていない新品でしたが、私の考えの中ではどうしても「真呼吸」が必要だったのです。
というのも、この「真呼吸」は 穴あきダクトを使い株元へ局所施用できる ため、より高濃度のCO₂を与えられます。換気窓を開けていても光合成を高めることができる のです。春のイチゴは酸っぱいことが多いのですが、これによって甘いイチゴができます。
今まで使っていたガスと灯油の発生器は春先まで使うことが出来ませんでしたが、「真呼吸」は 燃焼による熱を冷やしてから施用する ため、暖かくなった春先まで使えます。今年は作が終わる6/25当日まで使っていました。まさに、私が求めていたCO₂発生器でした。
他社のCO₂発生器も比較しましたか?
春先までしっかりCO₂を与えることを考え、(他社のCO₂発生器を使った)生ガスでの施用も検討しましたが、決め手は ランニングコストの安さ でした。「真呼吸」ならコストを気にせずCO₂を炊き続けることができます。
導入後はどのような変化がありましたか?
以前は、株と株の間の空気を動かすことが出来ずにいました。とくに冬は、寒くて換気窓が締まっているため、ハウス内の空気が動きにくくなります。しかし、穴あきダクトを使って株元までCO₂を送り込むことで、密植でも空気が動き、作物が光合成しやすくなりました。 空気に“よどみ”がないおかげで、病気も減りました。
栽培後半になると株が混み合い、ジャングルのようになった所で鎌を片手に株抜きをします。手で持つのも大変だった株が、混みにくくなったことで地元のシルバー人材会社から来てくれている背の低いおばあちゃんでもできるほど、作業が楽になりました。1週間かかっていた作業が1日で8割も進み、作業効率も良くなった のです。
そして、一番大きく変わったのは生育です。
今までは一つの株からたくさんの葉が出るものの、イチゴの実はそれほど成りませんでした。それが、CO₂の施用方法を変えてからは 一つの株からたくさんのイチゴができ、作が終わる時期になると株が大きい んですよ。これは“しっかりイチゴの実を育てた”という証拠!見た目からも変わってきました。
自動化による効果を教えてください。
今までだったら天気が急に変わると誰かがハウスへ行って、窓の開閉など手動で作業する必要がありました。現在ハウスが3ヶ所にあり、往復するだけでも10分ほどかかります。それが一日何回もあると、手間も時間もかかって大変です。それが 自動化によってハウスに行かなくても良くなりました。
栽培管理を機械に任せることで、従業員は収穫や選果に集中でき、より良いものが出荷できる。 これが一番大きい変化ですね。
販売ルートについて教えてください。
今までは他のイチゴ屋さんに卸していましたが、来年からは 「土生農園」のブランドとして売っていきます。 現在、地元の商社を通して市場にも流せるように準備を進めているところです。
―土生さんが直接営業されているのですか?
そうです、販路について詳しい方と一緒に営業に回っています。ハウスは機器と従業員に任せられるからこそ、私は販路開拓に動くことができているのです。
今までの農業は、“いくつになっても自分が働かないといけない…”という年齢の心配があったのですが、自動化できる環境制御盤に出会ったことで、そういった心配がなくなってきました。今後の農業はこの様に変わってゆくと思います。そうすれば若い人たちも、もっと農業に感心を持ってくれると思いますし、自分自身の取組みの中で「農業って楽しいぞ~!」と発信していきたいですね。
販路の拡大に向けてブランディングされていることはありますか?
ギフト用にオリジナルのケースを作っています。私の好みでかわいいケースを作ってもらいました。周りのイチゴ農家がカッコイイ箱を作っているので、そこと差別化することも目的です。
今後の展望について教えてください。
通年、週休2日にすることが出来たので、次はお正月休みが取れるようになることを目指しています。繁忙期だから休めない…というのは無くして、農業でもしっかり休んで、かつ楽しく儲かるようにしたい。
あとは 女性が働きやすい環境を作りたい です。
農業って跡取りは男の子という考え方もありますが、私には娘がいるため女の子でも農業ができるような仕組みを作りたいです。
今後、「真呼吸」を利用した夏イチゴ で収益が上がる見込みなので、作業棟を作り変え、更衣室やきれいなトイレを設置して…やっぱり汗をかいたら着替えて帰りたいじゃないですか。農業=汚いじゃなくて、ここだったら働ける!と思ってもらえるような環境を作りたいですね。
―夏イチゴとは?
例えば、20aのハウスで冬作のイチゴを4月いっぱいでやめて植え替えれば、6月から出荷ができる。夏はどうしてもイチゴの実が小さく、酸っぱくなるので、高濃度のCO₂をたっぷり与えて美味しいイチゴに変えたい と思っています。
そこで収益を上げることができれば雇用も安定するし、収穫量が安定すれば、出荷先への安定供給にもつながります。
冬の作が安定してきたので、次は夏!今ある機器や設備を使って夏イチゴを作ることにより、施設の規模を大きくしなくても休ませる圃場を少なくすれば収益が上がってくる。機器がそろっているから色々なことにチャレンジできます。どんな結果が出るのか、今からとても楽しみです。
今回取材させていただいたのは…
土生農園 土生真人(はぶ まさと)さん
陽気で茶目っ気のある土生さんは、その明るく気さくな性格から周囲のイチゴ農家からも信頼が厚い。取材中も笑い話が絶えず「農業が楽しくて、イチゴ作りに夢中なんです!」と目をキラキラ輝かせながら語る姿はまるで少年の様だ。
娘さんが農業を継ぎたいと思ってくれるように、女性農業者や若い人たちが“楽しく、働きやすい職場環境作り”を目指している。
●好きなもの:森永製菓のラムネ
コンビニにあると買い占めてしまうほど大のラムネ好き。
ライタープロフィール
【施設園芸ドットコム 編集部】
農家さんへのお役立ち情報を配信中!
新しいイベントの企画やコラム記事の執筆、農家さんや企業様の取材を行っています。みなさんに喜んでいただけるような企画を日々考案しています♪