コラム

農業用ビニールハウスの台風対策【事後対策編】自分でできるハウスの補修とは?

公開日:2024.10.28

今年も大型台風や竜巻、ゲリラ豪雨などの影響で農業用施設への甚大な被害が多発しました。
台風による強風被害は7月~10月に多く、特に台風の進行方向右側(台風の中心よりも東側)で風が強くなります。農業用ハウスは倒壊、破損、浸水、の可能性が高くなるため事前の台風対策が必要です。さらに、台風が通過した後も二次災害などの被害拡大を防止するための「事後対策」も大切です。台風の襲来前後に適切な対策を取ることでハウスや作物への被害を最小限に抑えることができます。

本記事では、台風通過後の事後対策(処置)とともに、ハウスの破損を補修できるハウス補修テープの使い方と選び方についてご紹介します。

1.台風通過後の事後対策~ハウス編~

台風が通過したからといって油断は禁物です。ハウスや作物がどうなっているのか心配なのは分かりますが、こうした状況下では人命を最優先に落ち着いて行動することが重要です。
台風通過後は、気象情報を十分に確認したうえ、風雨が収まってからハウスの点検と処置の作業に入ります。

【1】ハウスの安全を確認次第、ハウス内外を見回ります。
ハウス各部を点検し、構造体のボルトやナットなどが緩んでいたり脱落していたりしていたら、締め直すか取り付けるようにしてください。被覆材や支柱、防虫ネットなどの資材も点検します。また、環境制御装置や補光関連設備などがある場合には速やかに作動状況を確認してください。
ハウス周辺に切れている電線を発見した場合は、事故防止のため手を触れないようにします。

【2】ハウスに破損箇所があった場合、まずは被災したことを証明するために写真を撮影して保存します。被災した施設やその箇所、サイズなどが分かる程度で構いません。撮影する際は、角度を変えるなど複数枚の写真を撮影すると良いでしょう。

【3】ハウスの破損箇所を補修する場合やパイプを撤去する際は、部材を外した時にパイプの跳ね返りなどによりけがをする可能性があります。そのため作業中はヘルメットを着用して安全を図ります。
作業には危険を伴うことがありますので、可能な場合は経験者の応援を要請するのがよいでしょう。

【4】台風通過後は強い日射により温度が急上昇して高温障害を生じやすいため、速やかに換気することが重要です。換気システムを利用する場合は、切っていた電源を回復させてシステムを作動させます。停電を伴うときは、手動または非常用電源により対応します。

また、天窓を開放して換気する際に、停電などにより天窓の開閉が困難なときは、遮光ネットを展張する(伸ばしながら広げる)などして、ハウス内の温度を下げるようにします。天窓を開放したままの状態では、雨が吹き込んで作物に汚れや病害が発生する恐れがあります。可能な限り、手動でも開閉を調節することが必要です。

【5】ハウス内に水が流れているうちは作物に酸素が供給されますが、水が流れずに滞ってしまうと作物は酸欠状態に陥ります。ハウス内外の水を速やかに排出させることが大事です。必要に応じてポンプを利用し、水を素早く抜き取ります。

【6】ハウス内の水が引いてから、ベッドを整形するとともに中耕[畝(うね)の表層を浅く耕したり、畝間を耕したり]します。

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2.台風通過後の事後対策~作物編~

(1)作物への泥のはね上がりが多い場合には、動力噴霧機などを使用して洗い流します。

(2)台風通過後は、雨水が流入するなどによりハウス内部が多湿になって作物に病気が発生しやすくなります。そのため、防除方針に従って殺菌剤を散布します。また、根の活性が低下するなど薬害が発生しやすい状態にある点にも、注意が必要です。

(3)風によって表面に傷がついてしまった作物は傷口から病原菌が侵入しやすいため、天候を見計らって殺菌剤を散布します。

(4)潮風を受けた場合には、可能な限り速やかに茎葉に付着した塩分を洗い流します。なお、温度や日射量が高くなると被害が大きくなりますので、なるべく早く作業することが大事です。

(5)作物によっては速効性の窒素肥料やカリ肥料、高機能液肥を施用したり葉面散布したりすることで作物の回復を図ります。

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3.自分でできるハウスの補修 そうだ「ハウス補修テープ」を使おう

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農業用資材の昨今の高騰は、農家の方にとって大きな負担となっています。このようなご時世では、農業用ハウスが破損した場合であっても、そう簡単には建て替えできない状況ではないでしょうか。かといって、業者にハウスの補修を依頼するのにもコストがかかります。農業保険に加入していれば損害費用を負担してもらえることもありますが、手続きに時間がかかったり、業者の早急な手配が難しい場合もあります。

そのようなとき、農家の方自身でも工夫<できることがあります。それは、ご自身で可能な限り早くハウスを補修することです。そうすることで、コストを最小限に抑えられる上に早期に営農再開を果たせます。
ご自身でハウスを補修する際に利用できるグッズの1つ、「ハウス補修テープ」があります。ここからは「ハウス補修テープ」の選び方や使い方をご紹介します。

ハウス補修テープの種類と選び方

ハウス補修テープには、耐久性により、大きく分けて2つのタイプがあります。

・長期用テープ

ポリオレフィン(PO)フィルムのように長期間使用するフィルムに貼ります。貼った時に、しわができにくいことがポイントです。しわによって出来た隙間から水が入ると、水が作物に落下して病気の原因などになり得るからです。また、しわの形成により、粘着力が低下してテープが剥がれやすくなります。
【選び方】長期用テープは、ある程度厚みがあるものがよいでしょう。厚みがあると、貼る時にテープがよれないからです。反対に、薄すぎると、しわが出来やすくなります。


・短期用テープ

1年で張り替えるような耐用年数の短いフィルムに貼ります。
【選び方】長持ちしない分、貼る時の作業性(手軽さ)を重視します。例えば、足場が不安定な場所で作業するには、カッターなどの道具がなくても、手で簡単に切れる補修テープが便利です。





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ハウス補修テープは、農業用ハウスのフィルムに合ったテープを選ぶことが大事です。適切なハウス補修テープを選ぶことで、何度も貼り直したり、まだ使えるテープを1年で捨てたりなどしなくて済みます。

4.ハウス補修テープの使い方

破れているままの状態のフィルムに直接ハウス補修テープを貼ると、ハウスの内側にフィルムの返しが残り、そこに露(つゆ)がたまってしまいます。露はやがてハウス内で垂直方向に落ち、作物を濡らして作物を汚染したり、病気を引き起こしたりする恐れがあります。 こうした事態を防ぐためには、まずカッターを使って破れたフィルムの穴の周りを切り抜きましょう。そうしてから補修テープを貼ることにより、フィルムがテープに密着して凹凸がなくなります。その結果、露は作物のほうに落下せずにハウス内側の補修部分を伝って通過します。

このようにハウス補修テープの貼り方一つでハウス内の露の流れ方が変わるため、使い方も重要です。




日本各地では、これまで経験したことのないような台風による強風被害が多発し、農業用ハウスの倒壊やフィルムの破損といった被害が多く発生しています。 来るべき台風に備えて、日頃から台風への防災意識を高めておくことが大事です。農業用ハウスや作物への被害を最小限に抑えるために、台風襲来前だけでなく台風通過後も対策を怠らないようにしましょう。
台風による被害に遭った場合には、農業用ハウスを農家の方自身で補修することも可能です。ご自身で可能な限り補修することで無駄なコストおよび時間を費やさずに済みます。

ただし、ハウスの倒壊などは補修できません。いざという時のために農業保険への加入も検討しましょう。

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▼参考文献
〇農文協編. 農家が教えるハウス・温室無敵のメンテ術 : 簡単補強、省エネ・経費減らし. 農山漁村文化協会, 2016.
〇高木篤史. 畑が水に浸かってしまったら、3日以内に四つの対策. 現代農業. 2018, vol. 97, no. 8, p. 70-73, (台風・豪雨、猛暑に立ち向かう ; 台風・豪雨に立ち向かう).
〇”千葉県農業用ハウス災害被害防止マニュアル”. 千葉県農林水産部. 2019-10.
https://www.pref.chiba.lg.jp/seisan/jouhou/documents/nougyouhausu-saigaihigaibousi-manual.pdf, (参照 2024-10-14).
〇”ハウス施設の台風対策”. 高知県農業振興部.
https://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/download/?t=LD&id=9642&fid=81214, (参照 2024-10-14).
〇”台風7号による被害の事後対策について”. 千葉県農林水産部. 2024-08-15.
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/gijyututaisaku/documents/20240815typhoon.pdf, (参照 2024-10-14).
〇”台風に対する農作物等の技術対策(8月)”. 千葉県農林水産部. 2024-06-18.
https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/gijyututaisaku/documents/240618-typhoon.pdf, (参照 2024-10-14).
〇横浜市Webサイト. “台風接近に伴うパイプハウス等の被害防止への備えについて”. 2024-08-09.
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/nochi/annai/r1typhoon19.html, (参照 2024-10-14).
〇日本ワイドクロス, 「ワイドクロス手切れフイルム補修テープ™」,チラシ
https://www.sunsunnet.co.jp/cms/uploads/a4_.pdf

ライタープロフィール

【清原 筆養父】
ライター・翻訳家・一級知的財産管理技能士の三刀流。農学修士。野菜(特に、小松菜、豆類、山芋)が大好き。農産物の栽培・加工・包装、農業資材、園芸用品、肥料、農薬、農機具などに関する技術・特許調査・分析、技術・法律文書作成、翻訳などの経験がある。アグリテックやフードテック、テロワールなどに注目している。








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