コラム
公開日:2024.04.10
※本記事は2019年12月13日に更新した記事をリライトしたものです。
アスパラガスは日当たりが良ければプランターでも栽培することができます。この頃は冬が近くなるとホームセンターでも植えた年から収穫が楽しめる大苗が販売され、アスパラガスの栽培はより身近なものになってきています。これまでの記事では初心者向けに肥料の与え方や株分けといった栽培方法や、代表的な病気や害虫についてご紹介しました。
今回は上級者編として収量や品質をアップさせるポイントについてご紹介します。
注目するのは株の力といえる「貯蔵根に蓄えられる養分量」と株の質といえる「地下茎の生長点やリン芽の数や太さ」です。収量・品質アップを目指して地中の状態をしっかりと想像しながら株の力と質を良い状態へ導きましょう。
土耕栽培では地中の生長も想像しながら土づくり、立茎管理、かん水の3つのポイントを抑えることが収量・品質アップの近道となります。ここからは具体的なポイントをご紹介していきます。
アアスパラガスの根は深さ70cm、幅150cm程になります。一度定植したら何年も植えたままなので定植前に望ましい根圏環境を整えるべく、しっかりと土づくりを行いましょう。
アスパラガスは湿害に弱く、乾燥に耐性はあるけれど収量が低下するため排水性と保水性が良好な土壌を好みます。目標は有効土の厚さが40cm以上、ち密度が中山式硬度計で20mm以下、地下水位が50cm以下、pH5.5~6.5です。また10aあたり10~15tの完熟堆肥を投入して土壌の保水性を高めましょう。
定植後は毎年、通路部分に堆肥や有機質資材を施用し畝への培土を行いほ場全体の土づくりに努めます。
根株は地下茎の先端に生長すると若芽として収穫するリン芽を作りながら大きくなります。同時に地下茎の外側には側芽が作られて新しい生長点となります。複数の生長点が独立して発達し、生長点にリン芽ができることで新たな収穫が増えていきます。このことを踏まえ、定植2年目までは生長点ごとに立茎させ、生長点を増やして株を広げるようにします。立茎位置を最優先し畝幅に均等に配置するようにし、同じリン芽群から2本立茎させないようにしましょう。
4年生以降の成株は生長点ごとの立茎にこだわらず成長点数を維持するようにします。立茎本数の目安は1株あたり3~4本、うねあたり10~12本です。茎の太さは10~14mmが良く、余分な茎や細い茎は根元で刈取ります。
立茎は株の貯蔵養分量が低下してきたら開始します。具体的には収量がピーク時の30%減やL級以上が30~40%減となった時、穂先の開きが目立ってきたり曲がり茎が増えてきたりと品質が低下してきた時です。
かん水を効果的に行うことで大きな増収が期待できます。 光合成や同化養分の流転に多くの水分を必要とすることに加え、若芽の萌芽期間中に土壌水分が不足するとリン芽が一時的に休眠状態になってしまうからです。かん水の効果は増肥より大きいといわれています。
かん水は株の生長にあわせて畝全体が湿るように、けれども長時間滞水しないように気を付けます。1回のかん水量の目安はpF2.3以下で、テンションメーターを使うと簡単に判断できます。かん水時には茎枯病などの病害対策として茎葉をできるだけ濡らさないようにすることも重要です。
萌芽が止まってからもかん水を継続すると貯蔵養分量が増え、貯蔵養分量に大きく左右される春の収穫において増収や品質向上が見込めます。
他にも、かん水と施肥を効果的に取り入れる方法として「養液土耕栽培」があります。養液土耕栽培とは、培地に土を利用し、養液栽培を取り入れた栽培方法です。液肥混入器を使い、点滴チューブで水分と養分を均一に放出する自動かん水・施肥システムを使用します。
かん水量は、アスパラガスの生育に大きく影響します。養液土耕栽培を採用すれば、土壌に最適な水分量を土壌含水率や日射量から自動的に割り出すことが可能です。そのため、かん水量の調節にかかっていた時間コストの大幅な削減が実現します。また、排水性の悪い圃場での湿害対策にも効果的です。
養液土耕栽培は基肥を減らし、定期的に土壌溶液を採取して必要量を施肥する方法です。使用する肥料全体の量を少なくできるメリットがあり、施肥量が減少しても十分な収穫量を確保できます。
島根県農業技術センターでは、高畝栽培と自動潅水・施肥システムを組み合わせたアスパラガスの養液土壌栽培で、県内の施設栽培と比較して約3倍の量を収穫1年目に実現しました。
自動潅水・施肥システム「ゼロアグリ」を販売している株式会社ルートレック・ネットワークスでは、長崎県の自社ほ場にてアスパラガスの高畝栽培を行いながら、新規就農者が簡単に取り組める“栽培パッケージ”作りに取り組んでいます。ガリバーなど複数の品種を栽培予定とのこと。
養液土耕栽培を導入する場合は、専用の施肥装置と点滴潅水チューブが必要です。チューブの詰まりを防ぐため、定期的なメンテナンスが必須となります。
以上、土耕栽培のポイントと、溶液土耕栽培根について解説しました。株の生長と萌芽の関係などアスパラガスの性質をしっかりと把握し栽培上級者を目指しましょう。
▼参考文献
〇長野県園芸作物生産振興協議会,アスパラガス収量性向上マニュアル
〇山口県農林総合技術センター,山口県アスパラガス栽培管理マニュアル
〇JA全農、各種施策、おすすめする省力低コスト・生産性向上メニュー、3.園芸向け省力低コスト技術、養液土耕栽培法
ライタープロフィール
【内村耕起】
宮崎県の牛農家生まれ。大学院で植物工場での廃棄物利用に関する研究に従事したのち、全国の農家を訪ね歩いてファームステイ。岩手県の自然栽培農家で2年間の農業研修を経て、現在は宮崎県の山間部の村で自給的農業を営む傍ら、ウェブライターなどもしています。