コラム
公開日:2019.06.14
単一作物に特化した作付けを行っていると問題になるのが連作障害です。
連作障害は同じ種や同じ科の作物を同じ場所で繰り返し栽培することで生じる生育障害を指し、特に問題となるのが特定の土壌病原菌や土壌害虫が増えることです。何も対策を取らずにいると全く収穫ができなくなることもあります。
連作障害を避ける有名な方法として「輪作」があります。しかしトマト農家など専業農家で単一作物を専門に栽培している場合などでは輪作が難しいこともあり、他の対策が必要になります。一般に広く行われているのは作付け前か作付け後に農薬で土壌の消毒を行うことです。
そこでここからは土壌消毒の効果的なやり方やおすすめの薬剤についてご紹介します。
土壌消毒を効果的に行うために消毒対象の土壌の前処理を行いましょう。
【土壌の前処理】
◆作物残さ、特に病害虫に侵されたものは丁寧に取り除きます。
◆薬剤が土壌に均一に行き渡るように土壌はできるだけ深く耕し大きな土の塊が無いよう砕きます。
◆土壌水分は薬剤の効果が発揮されやすい土を握って手を開くと割れ目ができる位に調整しておきます。
◆薬剤は処理後にすぐガス化するものが多いので防護マスク、防護メガネ、ゴム手袋などを着用しましょう。
土壌消毒におすすめの薬剤を有効成分別にご紹介します。
幅広い種類の作物に利用することができ、炭疫病、青枯れ病、立ち枯れ病、ネキリムシ類、センチュウ類、一年生雑草など糸状菌、細菌、害虫、センチュウ、雑草と広範な病害虫・雑草に用いることができます。
土壌注入タイプの薬剤で、土壌全体に縦横30cm間隔で深さ約15cmの所に数mlの薬剤を注入します。薬剤は注入後に直ぐ気化するので覆土するかポリフィルムで被覆します。手動注入機から薬剤注入とマルチ被覆を同時に行ってくれる便利な機械まで様々なタイプの注入機が販売されています。所定の日数が経過したらガス抜きのために被覆材を取り除き耕うんします。土壌全面処理が一般的ですが作物によっては畝のみに処理を行うこともあります。クロルピクリン剤は激しくガス化することが難点ですが薬液をフィルムに封入したクロピクⓇテープやクロールピクリン錠剤など使い勝手のよい資材も販売されています。
主にセンチュウ類に効果を発揮し、防除しにくいネグサレセンチュウやシストセンチュウにも良く効きます。土壌注入タイプの薬剤でクロルピクリン剤と同じように使用します。
クロルピクリン剤とD-D剤を配合した薬剤で両者の良いところを活かし幅広い病害虫、雑草に効果を発揮します。2種配合によって殺センチュウ力がアップしていたり、クロルピクリン剤より刺激臭が抑えられハウスなどの施設内でも使い易くなっていたりします。こちらも土壌注入タイプの薬剤です。
糸状菌、細菌、センチュウ、雑草など広範な病害虫・雑草に用いることができ、毒劇物ではなく普通物なので安全に使用することができます。
土壌表面散布タイプの薬剤で、土壌表面に所定量の液体薬剤を散布します。土壌と接触するとガス化するので散布後に直ぐ耕うんとポリフィルム被覆を行い、所定の日数が経過したら被覆材を取り除きガス抜きを行います。土壌注入より簡便で、散布はジョウロでも良いですしトラクターに専用散布機を付けて散布と耕うんを同時に行うこともできます。作物によっては土壌注入することもあります。
糸状菌、細菌、センチュウ、雑草など広範な病害虫・雑草に用いることができます。
土壌混和タイプの薬剤で、土壌表面に所定量の粉粒状の固形薬剤を散布し、15~25cmの深さによく混和します。薬剤は混和後にガス化するのでポリフィルムで被覆するか鎮圧散水し、所定の日数が経過したらガス抜きのため被覆を除去して耕うんします。微粒剤のため手や散布機で簡単に散布でき、均一に散布できたかどうかを目視で確認できます。
センチュウに高い効果があり、残効性が長いため栽培期間の長い作物にも適しています。
土壌混和-接触型タイプの薬剤で、土壌表面に所定量の粉粒状の薬剤を散布し薬剤が土壌中に均一に分布するようによく混和します。微粒剤のため散布が簡便なうえ、薬剤が線虫に接触することで効果を発揮するので被覆・ガス抜きは不要です。
主にセンチュウ類に効き、肥料であり農薬登録もされている資材です。
イミシアホス剤と同様に土壌混和-接触型タイプの薬剤で、主成分が水分と反応すると農薬としての有効成分ができ病害虫と接触することで効果を発揮します。
幅広い土壌病害虫を死滅させられるため土壌消毒薬剤の無いベト病などにも有効です。
太陽熱で土壌を高温にすることで消毒します。7~8月の高温期に藁などの有機資材を土壌混和し、できるだけ深く耕起したら畝を立てます。畝間に潅水して土壌を湿潤状態にしたら土壌をマルチで全面被覆し、ハウスの場合には外貼りのビニールも密閉します。その状態を1ヵ月保ち、40℃以上の地温が1週間以上維持されるようにします。
臭化メチルが使えなくなり防除が難しくなっているモザイク病などに有効です。
夏季に週3回1時間程の潅水を行い、土壌を1ヵ月ほど湿潤な状態に保つようにします。ウイルスに感染した根などの作物残さが腐熟することでウイルス濃度が低下します。
連作を重ねるにつれて特定の土壌病害虫の被害が大きくなっていきます。土壌消毒剤を上手く使いこなして被害を未然に防ぎましょう。
【参考サイト】
●JA.com、土壌消毒のポイント、土壌消毒剤を上手に使って連作障害回避、現場で役立つ農薬の基礎知識2017
<https://www.jacom.or.jp/nouyaku/rensai/2017/06/170630-33093.php>
●みんなの農業広場、土づくり編(7) 土壌消毒-ガスと粒剤を中心とした消毒方法
<https://www.jeinou.com/benri/machine/soil/2012/10/170930.html>
●農研機構、「茨城県のピーマン産地における脱臭化メチル栽培マニュアルの開発」、臭化メチルを使用しないピーマンモザイク病の防除体系
<http://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/carc/kenkyu_koryu/files/kantoseika_h25ibaraki9.pdf>
ライタープロフィール
【haruchihi】
博士(環境学)を取得しています。
持続可能な農業を目指し、有機質肥料のみを使ったトマトや葉菜類の養液栽培を研究してきました。研究機関やイチゴ農園で働いた後、2児の母として子育てに奮闘する傍ら、家庭菜園で無農薬の野菜作りに親しんでいます。