コラム

窒素過多の原因と改善方法。生育不良を改善するために必要な対策とは?

公開日:2024.02.15

ハウスで栽培する果菜類は、施肥基準どおりに栽培しても窒素が多すぎることが原因で様々なトラブルが発生しやすく、読者のみなさまの悩みの種になっていると思います。ここでは、施設果菜類の栽培で起こりやすい窒素過多の定義や症状を簡単に説明するとともに、主にトマトを例に窒素過多の改善対策を説明していきます。

1.窒素過多(ちっそかた)とは?

窒素過多を簡単に言うと、「作物が吸収した肥料要素のうち、他の養分に比べて窒素が多く、それによって作物の生産に悪影響を与える」ことです。
作物が必要とする肥料要素は、窒素の他に、リン酸、加里(カリウム)、石灰(カルシウム)、苦土(マグネシウム)等がありますが、最適な比率は作物ごとに異なっています。果実1tの生産に必要な養分吸収量は、トマトでは窒素:リン酸:加里が1.8kg:0.8kg:4.3kgですが、ピーマンでは同じく5.9kg:1.2kg:7.4kgとされています。すなわち、ピーマンの施肥設計でトマトを栽培すると、窒素が余ってしまい、余った窒素が原因で生育に悪影響を及ぼすのです。

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2.窒素過多の症状と被害

窒素は葉を作るためには欠かせない養分ですが、多すぎると葉が育ちすぎたり、他の養分が吸収されにくくなります。以下、窒素過多の典型的な症状とそこから起きる生産上の被害を簡単に説明します。

1)葉が大型化する 

例えばナスやトマトでは葉が大きくなるとともに葉色が全体的に濃くなります。このことにより、果実に光が当たらなくなり、果実の肥大が抑えられたり、成熟期が遅くなってしまいます。さらに、葉が大きくなると、植物体の一部が常に湿っていることになり、灰色かび病等の病害が発生しやすくなります。





2)葉の先端が枯れこむ 

例えばイチゴでは葉の先端が枯れこむ症状が起きやすくなります。これは、窒素過多により石灰(カルシウム)など他の養分の吸収が抑えられることが主な原因です。イチゴに限らず植物に枯れている部分があると、灰色かび病などの病原菌の足場になりやすく、殺菌剤を散布しても充分な効果が上がらない原因は、植物の枯れた部分をきちんと取り除けないことが大きく影響しています。





3)果実の生長が盛んなときに先端部が枯れる 

トマトやパプリカにおいて、収量に直接影響する生理障害として「尻腐れ果」があげられます。尻腐れ果は一般には石灰(カルシウム)の欠乏症状と理解されていますが、実は窒素過多とも大きく関係しています。トマトの場合、尻腐れ果は果実がピンポン玉~鶏卵くらいの大きさの時期に発生することが分かっている一方、生育が旺盛(≒窒素過多)であると発生が大幅に多くなることが知られています。 このことから、尻腐れ果も葉先端の枯れと同様に、窒素過多が石灰(カルシウム)の吸収を阻害するために起こるのです。

3.窒素過多の改善対策【予防としての土づくり対策】

みなさまが丹精を込めて作られている野菜に窒素過多症状を出さないためには、①予防としての土づくり対策を基本として必ず実行し、それでも発生する場合は②生育中の応急対策を補助的に行うのが重要です。ここでは、主にトマトを例に説明しますが、ナスやイチゴなど他の作物でも応用可能な基礎的な事項をまとめました。

まずは【予防としての土づくり対策】について説明します。

カリウムを十分に含んだ牛ふん堆肥を施用する

最近は、労力不足などのため、堆肥の施用を省略して栽培する農家の方も目立ちます。しかし、各産地で作成されている施肥基準や土壌診断センターから送られてくる施肥設計書は、実は牛ふん堆肥を施用することを前提に設計されていることが多いのです。というのは、お手元の施肥に関する資料を参考にしていただきたいのですが、肥料だけでは窒素とカリウムの比率が1:1前後である事例が多く、これでは窒素過多を起こしてしまいます。しかし、優良な牛ふん堆肥の成分含有率は、窒素0.03%に対しカリウム2%程度と、窒素過多を未然に防ぐことができる最良の資材です。

▲クリックで拡大(引用:農研機構,露地野菜栽培における家畜ふん堆肥中リン酸、カリの有効活用)





土壌還元消毒での米ぬかのやりすぎに注意する、または代替資材を使用する

最近は、都市化により薬剤による土壌消毒が困難になった地域も多く、その代替策として「土壌還元消毒」が増えています。土壌還元消毒は、処理効果が高いうえに環境負荷も少ない優れた消毒法ですが、大きな欠点が1つだけあります。それは、還元剤に米ぬかを使用する場合、大量の肥料成分が残ってしまうことです。仮に10a当たり2tの米ぬかを施用した場合、残存する肥料成分は窒素成分量で10a当たり28kgに達します。

この値は、それだけでトマトの施肥基準の合計値を上回るものであり、土壌還元消毒後に生育が旺盛になりやすいのは主に窒素過多の影響と考えられます。よって、米ぬか施用量を10a当たり1tにする代わりに、夏場でも処理日数20日間をよく守り、湛水状態をなるべく保つ工夫をしましょう。

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また、米ぬかの代わりとなる資材の利用も効果的です。というのは、土壌還元消毒の原理は、処理中に大量の酢酸が発生することで病原菌が死滅することなので、酢酸さえ発生する資材であれば同等の効果が得られるためです。例えばアルコールであれば窒素をほとんど含有していないので、土壌還元消毒をしていて窒素過多に悩まされている場合は消毒用の資材をアルコールに変えるのが効果的と考えられます。

4.窒素過多の改善対策【生育中の応急対策】

ここからは【生育中の応急対策】について説明していきます。

畝間に籾殻を敷き詰める

窒素過多に伴い、病害が増えることは先ほど説明しました。一方、畝間に籾殻を敷くことで、湿度が高いときは余分な水分を吸着してくれる効果が期待でき、結果として病害の発生も減らしてくれます。また、栽培終了後の籾殻は、そのまま有機物にもなります。そして、籾殻自体が土壌中の窒素を吸着することで次作の無機態窒素含量を減らしてくれる効果も期待できます。

▲クリックで拡大(引用:農研機構,露地野菜栽培における家畜ふん堆肥中リン酸、カリの有効活用)




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葉面散布剤により葉を硬くさせる

窒素過多対策に効果があるとする葉面散布剤がたくさん市販されていますが、そのほとんどが「先に他の養分を施用して相対的な窒素吸収量を減らす」ことで窒素過多を改善するのが原理です。これらの資材は確かに体内の窒素成分を薄める効果がありますが、葉面散布剤に含まれる他の肥料成分のせいで過剰症になる恐れもあります。一番安心な対策は他の肥料成分と拮抗作用を起こしにくいケイ酸資材を使用することです。その一例として、簡単に溶かすことができる水溶性ケイ酸を多量に含んだ液体肥料があげられます。




以上、窒素過多について、①定義、②症状、③対策を簡単に説明しました。そもそも、人類が空中の窒素から大量に肥料を作れるようになって100年あまりしか経っていません。それを考えると、窒素過多は現代の農業における「生活習慣病」とも言えます。そして、いわゆる生活習慣病対策と同様に、窒素過多も原理や症状を正しく理解し、地道な努力を積み重ねることで発生をかなり防ぐことができると考えています。

みなさまのハウスがいつまでも「健康的」な農業生産ができるように、窒素過多対策をはじめてみませんか?



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▼参考サイト
〇地方独立行政法人 北海道立総合研究機構(道総研)
https://www.hro.or.jp/
〇農研機構,露地野菜栽培における家畜ふん堆肥中リン酸、カリの有効活用
https://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/seika/kanto17/15/17_15_01.html
〇公益財団法人 園芸植物育種研究所, 土壌還元消毒のメカニズム
https://www.enken.jp/column/column1/6901
〇農研機構,施設トマト栽培の籾殻施用による土壌中過剰窒素の低減化
https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H19/yasai/H19yasai001.html
〇パルアップ株式会社, 硝酸態チッソの低減効果
https://www.palup-agri.com/syosan-ion/
▼参考文献
〇千葉県, Ⅰ-2持続的生産を可能にする土づくり
https://www.pref.chiba.lg.jp/annou/documents/3103sehikijun_7yasai1.pdf
〇全農,JA全農ちば営農情報集(12月号)
https://www.zennoh.or.jp/cb/topics/202012.pdf
〇日本政策金融公庫,技術の窓№2587 パプリカの尻腐れへの技術的対応
https://www.jfc.go.jp/n/finance/keiei/pdf/2587.pdf
〇熊本県,農業の新しい技術
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/5444.pdf
〇農研機構,[成果情報名]土壌還元消毒後のトマト栽培における施肥指針
https://www.naro.affrc.go.jp/org/harc/seika/h22/DOURITU/H22seika-322.pdf
〇農研機構,低濃度エタノールを利用した土壌還元消毒技術 技術資料
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/ethanol/data.pdf

ライタープロフィール

【いしざかあきら】
1970年生まれ。1992年から2023年まで九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。









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