コラム
公開日:2022.09.09
同じ圃場で同じ作物を繰り返し栽培することで発生する「連作障害」。これを回避するためには、土壌中の病原菌や害虫などを駆除する「土壌消毒」が欠かせません。土壌消毒にはくん蒸剤をはじめとする土壌消毒剤を使用するのが一般的ですが、「太陽熱消毒」や「土壌還元消毒」など、化学薬剤を使わない方法も有効です。今回は、自然由来の有機物のパワーを活かした土壌還元消毒について、その効果や資材の使い方をご紹介します。
土壌還元消毒とは、米ぬか・ふすま・糖蜜などの有機物を散布・耕起してから土壌を水で満たし、太陽熱などを活用して約30℃以上の地温をキープする消毒方法です。混ぜ込んだ有機物をエサに土壌微生物が急激に増殖し、土壌中の酸素が一気に消費されて酸欠(=還元)状態になるため、病原菌や害虫を窒息死させることができます。この消毒効果には、有機物から生成される有機酸や、土壌中の金属イオンによる抗菌作用も関係していると言われています。60℃以上の地温が必要とされる太陽熱消毒に比べて低温で効果が得られるため、日照の少ない地域でも取り組みやすい方法です。
身近な有機物である米ぬかやふすまは、入手しやすいことや資材コストが安いこと、特別な前処理の必要がなくそのまま散布できることが利点です。その反面、効果が得られるのは有機物がすき込まれる深さ(一般的なトラクターで深さ15~30cmほど)までとなり、土壌の深い層に分布する菌や害虫に対する効果は不十分な場合があります。
砂糖を精製する時の副産物・糖蜜を使う場合、水で希釈してから耕うん後の土壌に散布しましょう。液体資材のため深さ50~60cmほどの土壌まで行き渡り、米ぬかやふすまのような固形資材より深い層まで消毒することができます。潅水チューブや動力噴霧器など、ハウスにある既存の潅水設備を活用できるメリットもありますが、粘性が高いので希釈に一定の時間と労力がかかります。
濃度1%ほどの薄いエタノール水溶液を散布する方法の中でも、糖蜜と同程度の土壌深度(50~60cm)まで消毒の効果が確認されています。エタノールには糖蜜のような粘性がないので、希釈作業は比較的簡単です。資材の価格が高めであることや、希釈に大量の水が必要になることに留意しましょう。
土壌還元消毒の新しい資材として注目されているのが、「糖含有珪藻土」と「糖蜜吸着資材」です。
糖含有珪藻土は粉状、糖蜜吸着資材は粒状で、どちらも固形資材なので希釈調製の必要がなく、米ぬかやふすまのように手軽に散布することができます。さらに、散布・耕起後に大量に潅水することで、資材から溶け出した有機物が水と一緒に土壌の深い層まで到達するため、50~60cmほどの深度まで消毒が可能。トマトの圃場では、青枯病や褐色根腐病、ネコブセンチュウなどに対する防除効果が報告されています。
土壌還元消毒は、処理を行う人間や環境への負荷を軽減しつつ、効果的に土壌改良を進めることができる技術です。防除したい病害虫の種類、圃場・作業条件、予算などに応じて使用する資材を選んでみてください。資材によっては消毒の過程で独特の臭いが発生したり、含まれている肥料分に応じて施肥量の調節が必要になったりしますので、各種マニュアルで詳細を確認しておきましょう。
▼参考文献
○新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫防除体系マニュアル(農研機構 中央農業研究センター)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/3c76e50cabb029d829fed7e51e9cdbbb.pdf
○低濃度エタノールを利用した土壌還元作用による土壌消毒技術 実施マニュアル(農業環境技術研究所ほか)
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/ethanol/manual.pdf
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!