コラム

スマート農業技術活用促進法とは?認定農業者が受けられる税制や金融の支援措置を解説!

公開日:2024.09.24

2024年6月14日に、農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律「スマート農業技術活用促進法」が成立しました。本法律は、農家の担い手不足に対応するため、生産現場の省力化や生産性の向上に役立つ設備投資を支援するものです。
本記事では、2024年10月1日に施行される「スマート農業技術活用促進法」の仕組みや支援の内容などを解説したいと思います。

1.支援を受けるためには法律に基づく実施計画の申請が必要

まず、スマート農業技術活用促進法の内容のうち、農家の方に関係する部分の概要を説明していきます。
農家の方やJAが、自動収穫機や環境制御システムなどの先端技術の導入に合わせて栽培方法を改める「生産方式革新実施計画」を作成して、国に申請します。国の認定を受けると、融資や税制などで、設備投資への支援が受けられます。

【スマート農業技術活用促進法の仕組み】

●申請の対象者

申請の対象者は、生産方式革新事業活動(詳細は後述します)に取り組む意思のある、農家またはJAです。
本法律は、原則として、複数の農家が共同して産地単位で生産方式革新事業活動に取り組むことを想定しています。個人の農家の方が申請する場合、スマート農業技術の活用に要する費用に比べ、その活用による農作業の効率化などの効果が十分に得られる規模で活動に取り組むことに留意する必要があります。

先端機器の導入には、コストがかかることや手作業に比べて不ぞろいが発生しやすいことなど課題があります。そのため、申請者にはスマート農業技術活用サービス事業者や、食品事業者を加えることも可能です。





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2.計画に含める活動内容は「生産方式革新事業活動」がカギ!

生産方式革新実施計画に取り組むためには、「生産方式革新事業活動」を実施することが必要です。

生産方式革新事業活動とは、「スマート農業技術の活用」と「農産物の新たな生産の方式の導入」とをセットとして相当規模で実施することにより、農業の生産性を相当程度向上させる事業活動を指します。
スマート農業技術の例としては、自動収穫機、ロボットトラクター、運搬ロボット、直播(ちょくは)ドローン、ハウスなどの環境制御システム、スマート選果システムなどが挙げられます。

農産物の新たな生産の方式の導入」については、本法律では、次の3つを規定しています。

①スマート農業技術を活用した作業効率の向上に資するほ場の形状、栽培方法、品種などの導入

②スマート農業技術の活用による機械化体系に適合した農産物の出荷方法の導入

③スマート農業技術により得られるデータの共有などを通じた有効な活用方法の導入





施設園芸における生産方式革新事業活動のイメージは、次のようなものです。

△出典:「スマート農業技術活用促進法 都道府県別説明会説明資料」(農林水産省作成)





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3.認定農業者が受けられる税制や金融の支援措置

本法律による主な支援内容は、次のとおりです。

日本政策金融公庫の長期低利融資

本法律に基づき認定を受けた農家の方を資金面から後押しするため、日本政策金融公庫に長期・低利の制度資金が創設されます。認定を受けた農家の方は、日本政策金融公庫から長期低利の融資を受けられるのです。
日本政策金融公庫の長期・低利資金は、償還期限を25年以内としています。これは、大規模投資にも対応しています。長期・低利資金の利率は、借入期間に応じて0.65%~1.75%(2024年6月19日現在)です。農家の方などが負担する額の80%を貸し付けの限度とします。

また、据え置き期間を5年以内とすることで、認定を受けた農家の方の初期償還負担を軽減します。貸付金は、先端技術を扱うための研修費などの長期運転資金にも使えます。

【資金の活用イメージ(例)】
スマート農機や営農支援ソフトの購入費
機械収穫に適した樹形への改植費、農薬費・資材費



所得税、法人税の特別償却

本法律に基づき認定を受けた農家の方は、設備投資する際、所得税や法人税の特別償却が認められます。
償却率は、認定を受けた農家の方が機械・器具を導入する場合は取得価額の32%、園芸ハウスや畜舎などの建物・構築物を導入する場合は取得価額の16%とします。
※特別償却の適用は2027年3月末まで



野菜法、航空法、農地法の特例の適用

以下に、法律ごとの特例の概要を示します。

●野菜法の特例
認定計画に従い、産地連携野菜供給契約に基づく指定野菜の供給の事業を行う場合、指定産地外の農家の方も、契約指定野菜安定供給事業に参加可能となります。

●航空法の特例
農業用ドローンなどの無人航空機による農薬散布などの特定飛行を行う場合の航空法上の許可・承認の手続が、ワンストップ化されます。

●農地法の特例
農地をコンクリートなどにより覆う措置を実施する場合の農地法に基づく届出が、ワンストップ化されます。

●計画の実施期間

申請の対象となる生産方式革新事業活動の実施期間は、原則として5年以内です。ただし、果樹などの植栽または育成を伴う場合などには、10年以内で設定することが可能です。





4.申請に必要な3つの認定要件



生産方式革新実施計画の認定を受けるには、次に掲げる要件を満たす必要があります。

(1)計画全体で農業の労働生産性を5%以上向上させる目標を設定すること

(2)生産方式の革新を申請者の作付面積または売上高のおおむね過半数規模で実施するとともに、費用対効果を確保できる規模で取り組むこと(中小農家の方の取り組みを促すため下限面積は設けない)

(3)農業所得が維持され、かつ、黒字となるよう取り組むこと




なお、計画の申請書の様式などは、本法律の施行日と同日の2024年10月1日に公表される予定です。そのため、計画申請の受付も、2024年10月1日から開始されます。申請の期限は、特にありません。申請先は、最寄りの地方農政局などです。

申請からの審査に要する期間は、原則1か月を想定しています。ただし、取り組み内容によっては、審査に1か月以上の期間がかかることがあります。十分な余裕をもって申請しましょう。

改正「食料・農業・農村基本法」の関連法の1つとして、スマート農業技術活用促進法が制定されました。食料安全保障を強化するためにスマート農業の拡大に力を入れる姿勢を示したのです。
国は、2025年度からスマート農機の購入や関連施設の整備などを補助するための新たな事業を設け、2030年度までにスマート農業技術の導入を集中的に進める方針です。スマート農業の加速により、わが国の農業の生産性が高まり、農業が持続的に発展していくことが期待されます。

一方で、農村部の非居住地では、携帯電話などの通信が(一部または全く)利用できない農地が10万ヘクタールもあると推計されています。そのため、居住地と合わせた農村部の通信環境の整備が不可欠となります。また、農業従事者は高齢者が多く、デジタル機器に不慣れな方も少なくありません。

情報通信技術(ICT)やドローン、ロボット技術などの先端技術の活用を促すだけでなく、スムーズに技術に慣れ、その恩恵を最大限に享受できるよう、きめ細やかで継続的なサポート体制を整備することが求められます。




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▼参考文献
〇宮本卓. “スマート農業法10月施行 設備投資 長期・低利で支援”. 日本農業新聞. 2024-06-25.
〇スマート農業法方針案 要件に下限面積設けず 農水省. 日本農業新聞. 2024-08-01.
〇宮本卓. “スマート加速へ新事業 農水省 機械、施設整備に助成”. 日本農業新聞. 2024-07-04.
▽参考サイト
〇”スマート農業技術活用促進法 都道府県別説明会説明資料”. 農林水産省. 2024-08.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/houritsu-28.pdf, (参照 2024-09-18).
〇”スマート農業技術活用促進法 都道府県別説明会参考資料”. 農林水産省.
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/houritsu-28.pdf, (参照 2024-09-18).
〇[解説・スマート農業法]①計画認定 導入、設備費を補助. 日本農業新聞. 2024-08-13, 日本農業新聞電子版.
https://www.agrinews.co.jp/news/index/251978, (参照 2024-09-18).
〇[論説]スマート農業技術 中山間地域の普及が鍵. 日本農業新聞. 2024-07-31, 日本農業新聞電子版.
https://www.agrinews.co.jp/opinion/index/249258, (参照 2024-09-18).
〇スマート農業 先端技術で生産性高めよう 社説. 河北新報. 2024-08-05, 河北新報電子版.
https://kahoku.news/articles/20240805khn000005.html, (参照 2024-09-18).
〇長谷川秀行. “スマート農業は加速するのか 風を読む”. 産経新聞. 2024-07-06, 産経新聞電子版.
https://www.sankei.com/article/20240706-3DSB5VSC5ZLFHG7453GQCVO5XE/, (参照 2024-09-18).

ライタープロフィール

【清原 筆養父】
ライター・翻訳家・一級知的財産管理技能士の三刀流。農学修士。野菜(特に、小松菜、豆類、山芋)が大好き。農産物の栽培・加工・包装、農業資材、園芸用品、肥料、農薬、農機具などに関する技術・特許調査・分析、技術・法律文書作成、翻訳などの経験がある。アグリテックやフードテック、テロワールなどに注目している。








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