コラム
公開日:2022.06.23
「有機」「無農薬」「自然栽培」「環境保全型農業」など…環境にやさしい農業や農産物にまつわる言葉は色々ありますが、今回は「特別栽培農産物」に注目。「特別栽培農産物って何?」「どうやって認証を受ければいいの?」「どんなメリットがあるのかわからない」という方向けに、知っておきたい基礎知識をまとめました。
「特別栽培農産物」とは、国の定める「特別栽培農産物表示ガイドライン」にもとづいて、特定の農薬や化学肥料を節減して生産された農産物のこと。「環境への負荷をできる限り低減しよう」という理念に則って栽培されるものですが、播種・植付け前~栽培期間中も農薬や化学肥料を使用しない「有機農産物」とは明確に区別されています。それぞれ満たすべき基準が異なりますので、混同しないように注意しましょう。
『有機農産物の日本農林規格(JAS規格)』にもとづき「播種や植付け前2年以上、化学肥料や化学合成農薬を使用しないこと」や、「組換えDNA技術が使われた種子や苗を使用しないこと」などが基準として定められています。第三者機関の検査・認証を受けると、「有機JASマーク」や「有機○○」などの表示を付けて出荷・販売することができます。
地域の「慣行レベル」に比べて、節減対象農薬の使用回数を50%以下かつ化学肥料の窒素成分量を50%以下にすることを基準としています。基準をクリアすると、「特別栽培農産物」や「特別栽培〇〇」と表示して出荷・販売することが可能です。「慣行レベル」は都道府県ごとに定められていて、品目や作型によっても異なっています。 有機農産物ではないので「有機」などの表示ができないのはもちろんのこと、曖昧な表現で誤解を招きやすい「無農薬」「減農薬」「自然栽培」などの表示も禁止されています。
特別栽培農産物の認証を取得したい場合は、国のガイドラインをもとにした都道府県の認証制度を活用しましょう。都道府県やその指定機関で認証を受けると、ガイドラインで義務付けられた表示とともに、都道府県独自の認証マークを付けて農産物を出荷することができます。
認証の対象となる農作物や条件、申請方法は都道府県ごとに異なりますので、詳細は地域の窓口にご確認ください。ここでは、例として埼玉県における認証の大まかな流れを示しました。
・栽培前
▷ 栽培計画書の提出
↓
・栽培中
▷ 栽培責任者(生産者など)による圃場看板の設置、栽培管理記録簿の記帳
▷ 確認責任者(生産・出荷組合など)による生産状況の確認
↓
・出荷前
▷ 栽培管理記録簿などを含む認証申請書様式を提出し、県による認証を受ける
▷ 埼玉県特別栽培農産物認証マークの使用申請
↓
・出荷終了後
▷ 生産・出荷実績報告書の提出
特別栽培農産物の最大のメリットは、商品価値を高めて消費者にアピールできること。最近はSDGsの観点からも、自然環境や生物多様性に配慮した方法でつくられた安全な農産物が選ばれやすい傾向にあります。また、特別栽培農産物は有機農産物ほど基準が厳しくないため比較的取り組みやすいのも魅力。認証を受ける場合も、申請にかかる時間的・金銭的な負担は有機農産物ほど大きくないことがほとんどです。
一方、これまで慣行的な栽培を行っていた圃場で、十分な準備をせずに農薬や化学肥料の使用量を抑えると、病害虫の発生や生育不良、減収を引き起こすリスクもあります。入念に土作りをする、抵抗性品種や天敵を活用するなど、しっかりと対策を立ててから取り組むようにしましょう。
以上、特別栽培農産物の概要について解説しました。農薬や化学肥料の使用量を減らしたいと考えている方はぜひ詳細をチェックしてみてください。
▼参考文献
○野菜づくりの基礎知識(滋賀県)
https://www.pref.shiga.lg.jp/file/attachment/1049287.pdf
○施設栽培の収量や品質を向上させたい方へ(神奈川県)
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/28279/870965.pdf
▼参考サイト
○農業・園芸用語集(タキイ種苗株式会社)
https://www.takii.co.jp/glossary/kensaku.html
○植物Q&A(日本植物生理学会)
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=0311
〇有機農業関連情報(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/
〇特別栽培農産物に係る表示ガイドライン(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/tokusai_a.html
ライタープロフィール
【にっく】
農業研究所の研究員として日本全国を飛び回ったり、アフリカ・東南アジアで農業技術普及プロジェクトに携わったり…国内外の農業に関わってきた経験を持つ農学博士です。圃場作業で汗を流すのが大好き。これまでの経験と知識を生かして、わかりやすい記事をお届けします!