コラム
公開日:2018.07.10
キュウリは夏野菜の中でも比較的育てやすく、家庭菜園でもよく栽培されています。クセがないのでサラダや浅漬けなど使い勝手がよく、つい買ってしまうこともありますよね。
キュウリには栄養素がほとんどないというのはとても有名な話で、ギネスブックにも“世界一栄養のない野菜”として登録されています。
しかし、全く栄養がないということはなく、ビタミンCやβカロテンなどの栄養素を含んでいます。また、キュウリに含まれるカリウムには利尿作用があり、体内の水分を排出するのを手助けしてくれます。水分と一緒に熱も外に出るので、キュウリを食べると体温が下がったり、むくみが取れると言われるのには、しっかりとした理由があるんです。
キュウリ栽培には種のまき方、発芽からの温度の保ち方、水やりの方法、害虫対策など様々な育て方のコツがありますが、今回は「病気対策のコツ」に着目していきます。
キュウリの栽培方法は大きく分けて2種類あり、地面に這わせて栽培する「地這い栽培」とつるを支柱やピンチなどで誘引する「立体栽培」があります。
地這い栽培はその名の通り、つるを地面に這わせて栽培します。つるの高さがないため暑さに強いと言われていますが、多大な面積が必要となる上、面積に対して収量が少ないことから農家ではほとんど採用されていません。地這い栽培は仕立てなどの手間がかからず、支柱を用意する必要がないため、家庭菜園などできゅうりを育てたい方におすすめです。
一方、立体栽培は樹を支柱や紐に誘引して栽培するため、作業の手間がかかります。しかし、面積に対しての収量が多く、効率が良いためほとんどの施設園芸ハウスでは、立体栽培が採用されています。 立体栽培の中にも「摘心栽培」、「つる下げ栽培」、「つる上げ栽培」など幅広い栽培方法があり、自分のほ場に合った栽培方法を求め、試行錯誤する生産者も多くいます。
キュウリに発生する病気の大半は糸状菌(カビ)によりもたらされます。
また、そのほとんどの菌が高温多湿の環境になると活動が活発になり、繁殖しやすくなります。
ここからは各病気の症状と対策を解説していきます。
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葉や茎、果実にうどんの粉をまぶしたようなカビが広がるのが特徴です。
うどんこ病が進行すると、葉全体が白く覆われて生育に影響を与え、収量や品質低下につながることも。被害の出方が特徴的なので、日頃より観察していれば発生初期でも比較的簡単に発見できます。
初期段階であれば被害の出ている部位だけを除去します。しばらくは周囲も含め注意して観察しましょう。被害が止まらないときは農薬を散布します。
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炭疽病が伝染したキュウリは、葉や茎に褐色の斑点が出来ます。病気が進行するとその斑点から穴が開き、葉が破れ、最終的には枯れてしまいます。
果実に発生するときは褐色の丸くくぼんだ形状の斑が徐々に大きく広がっていきます。
露地栽培や高温多湿の条件下で発生しやすく、一度発生してしまった部分は農薬を使用しても回復しません。初期段階であれば被害の出ている部位だけを切って処分しましょう。
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下葉から徐々に葉脈に沿うように葉が黄色く変色したら、べと病の可能性があります。べと病に感染してしまうと徐々に葉全体に変色が広がり、最終的にはカビを生やして植物を枯死させます。
主に高温多湿な環境を好み、換気不良や潅水過多など多湿の環境になると、発生しやすくなります。
また、窒素を過剰に与えると伝染の可能性が高まります。進行していくと収量や品質の低下につながるうえ、被害の出た葉から胞子を飛ばし周囲へ伝染するため早急な防除が必須です。
窒素が少なすぎると、きゅうりの実が曲がる原因にもなるため、バランスが重要となります。
べと病を発見したら、まずは被害の出ている部位を取り除きます。似たような病状が現れる褐斑病との見間違えに注意が必要です。判断がつかない場合はどちらにも有効な薬剤を選択します。
糸状菌を原因とする病気のほとんどは、作物に伝染していない期間も土中や水中に潜んでいます。
灌水や液肥での追肥、降雨などで菌の潜んだ泥水が跳ね上がることによって周囲の作物へと伝染し、被害を拡大させていきます。
これを防ぐためにはマルチの被覆が効果的です。(露地栽培をする場合には直接降雨を受けない場所を選びましょう。)
密植になると湿度が上がり、菌が繁殖しやすくなるので適度な株間と排水性の確保を心がければ被害のリスクを最小限に抑えることができます。
また、作付けに使用した支柱などの資材にも菌が付着していることがあります。次に使用するまでの期間が長く空いたからといって付着した菌は死滅しません。
病気が発生した株に使用していた資材は収穫後に処分するか専用の殺菌剤を使用してください。
葉に褐色の小さな斑点ができます。病斑は下葉から現れ、初期症状として、黄褐色の1cm程の円形の小斑点を生じます。炭疽病やべと病と見た目が似ているので注意が必要です。
糸状菌だけでなく、フザリウムオキシスポラムという菌も原因で発病します。その名の通り、つるが縦に割れてしまう病気です。
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発生初期、日中は葉の一部や茎の細い部分が萎れて、夜間には元に戻るという状態を繰り返します。繰り返しているうちに茎が割れて、植物内の白い組織が表面に現れます。その後、症状が悪化すると赤茶色の液体が滲みだし全体的に萎れてしまいます。
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下葉のほうから黄褐色に変化していき、生育が遅れて着果不良を引き起こします。連作すると被害が大きくなるため注意が必要です。
赤茶色の液体が滲みだし、全体的に萎れてしまったときにはすでに末期の状態です。株を処分するしかありません。その際、症状が出ている株だけを抜いてしまうと、隣の株にも症状が移る可能性があります。周りの株も同時に抜いて、病気の拡散防止に徹しましょう。
また、一度発病すると土壌内に病気が残るため、土壌消毒を行います。連作すると被害が拡大するため、接ぎ木苗を使用して、連作障害に強い苗を作り対策をしましょう。
茎の地際部から発生し、発生部位より先は枯死することが多いです。多湿が原因で発病しやすくなりますが、キュウリの場合は低温の時期でも発生することがあります。
糸状菌がもたらす病気と同様に生産者を悩ませるのがウイルス性の病気です。
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キュウリの葉に、濃い緑色のモザイクがかかったように模様が現れはじめたらモザイク病の可能性が高いでしょう。茎頂部より変化が現れはじめ、葉が委縮したような状態になります。
モザイク病はウイルス性の病気なので、被害が出た葉を取り除いても植物体がウイルスを持っているため進行を食い止めることができません。
モザイク病の株を発見したら、その下部は根ごと引き抜いて確実に処分します。放置すると感染源になります。
キュウリに病気をもたらすウイルスは、アブラムシを媒介して伝染します。病気を防ぐためにはアブラムシの対策が必須です。
アブラムシが発生しないように、防虫ネットの設置や強光を嫌う性質を利用してシルバーのマルチを被覆すると飛来の防止に効果的です。マルチをすることで、糸状菌の伝染も同時に防げるので理想的な対策といえるでしょう。
また、窒素肥料を与えすぎるとアブラムシが発生しやすくなります。バランスの良い施肥が必須となります。
キュウリは多湿状態だとべと病、褐斑病、つる枯れ病、炭疽病が、乾燥状態だとうどんこ病が発生しやすくなるため、病気対策には“水はけのよさや風通しの良さ”がポイントになります。
ぜひ、病気に負けない立派なキュウリを栽培してください。
▼参考サイト
〇JA鳥取いなば 家庭菜園
https://www.jainaba.com/yasai/katei/backno/0207/katei.htm
〇NHK出版 みんなの趣味園芸『「地這いキュウリ」って何?』
https://www.shuminoengei.jp/?m=pc&a=page_tn_detail&target_xml_topic_id=textview_28902
〇タキイ種苗株式会社 病害虫・整理障害 キュウリ
https://www.takii.co.jp/tsk/bugs/acu/disease/turuware/
▼参考文献
〇「病害虫診断のポイントと防除対策No.21 キュウリべと病」埼玉県農産物安全課、一般社団法人埼玉県植物防疫協会(2016)
ライタープロフィール
【Sandersonia(サンダーソニア)】
花とスケートボードを愛するフリーライター。サンダーソニアとは好きな花の名前。
IoT技術による農業生産の革新と農協改革の今後に関心を寄せる。花屋、JA営農指導員を経て独立。生産から流通、花束やフラワーアレンジメントまで花の知識ならお任せを。